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きみは誰のもの 31
ブブブ……
手の中で振動を感じ、ゆっくりと瞼を開くと、握りしめたままのスマホが着信を知らせていた。
「……はいよ」
『省吾、もう寝てた?』
「……起きた」
『ゴメン、明日の打ち合わせが長引いちゃって』
風呂から上がったところだと言葉を続けるハルの声にキュンとなる。
「忙しいんだから無理すんな。明日が最終だろ、早く寝ておけよ」
『もうすぐ誕生日だよ』
言われて時計に視線を向ければ、二十三時五十分。
誕生日か、忘れてた。
『起こしちゃってゴメン、でも声が聞きたくて』
こいつは何でいつも、思うままに言葉に出来るんだろう。
『ほんとは声だけじゃなく、省吾に触れていたい』
俺、だって。
『早く、会いたいよ』
会いたい。
会いたい。
会いたい。
「十分後に掛け直す」
『え?』
「だからまだ寝るなよ、いいな」
ハルの返事も聞かずに電話を切り、そのまま部屋を飛び出した。
ふと、四年前の今日を思い出す。
あの時はハルが突然やって来たんだ。真夜中に車を飛ばして、名古屋まで。
ビックリして、アホかと思って……嬉しかったんだ。
会いたいと思ったら、来てくれたから。
あれから四年経っても、ハルは変わらず隣に居てくれる。
(俺は……)
ハルの愛情に、ちゃんと応えられているのかな。
相変わらず気持ちを口にするのは苦手だし、甘い言葉なんて言えないまま。
会いたい。
触れたい。
抱きしめたい。
いつだって言葉をくれるのはハルからだ。
大通りを横切り、昼間目にした大きなホテルの正面に立ち息を整えてから、スマホを耳にあてた。
「ハル」
『省吾、何かあったの?……外にいるのか?』
「今、お前んとこのホテルの前。十秒以内に出てこなかったら帰るぞ。いーち」
『え、え? なに、ちょっとま……ほんとに待て!!』
ガタガタと慌てたような音と供に通話が途切れ、俺はスマホをポケットに戻し、はあと大きく息を吐きながらホテルを見上げた。
俺の気持ちを言葉にしたら、あいつはどんな顔をするかな。
ドン引きするか。
それとも。
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