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きみは誰のもの 43
リビングへ戻ると何故か珈琲の良い香りが漂っていた。
対面型キッチンのカウンターへ目をやると、手際良くドリッパーにお湯を注いでいるサワケースケが見えた。
「あ、粉あったから珈琲入れたよ。はい、ショウゴの分」
こ、こいつ。
キッチンは主の城だってわかってんのか。
文句を言うのも面倒になり、素直にマグカップを受け取る事にした。
「どーも。てかそれ飲んだらとっとと帰れよ」
「きみって本当、口悪いよね」
ほっとけ。
調味料棚から砂糖を取り出し、スプーンで三杯、珈琲に落とし掻き混ぜてから口に含んだ所で視線を感じ、顔をあげるとサワケースケが俺を凝視していた。
「な、なんだよ」
途端、クックと笑い始めたサワケースケ。
カチン。
「ゴメン、いや、相当な甘党なんだなと……ケーキをワンホール食べるだけあるね」
ハル。こいつに何を喋ってんだよ。
「ほら、バレンタインにさ。ハルがワンホール買って帰るって言ってたから。あいつは甘い物苦手なのに」
「あっそ」
「今度美味しいケーキを買ってこよう」
まさかの次回訪問予告か。冗談じゃない。
「いらねーし、来んな。仕事の用は会社で済ませてくれ。お前だって俺の顔なんて見たくないだろうが」
ダイニングテーブルに寄り掛かり、そばにあったテレビのリモコンに手を伸ばす。
電源を入れれば昼のワイドショーお馴染みの司会者が画面向こうで張り付いた笑顔を振りまいている。
「確かに、ハルが何故あれ程までにきみのようなお子様に執着するのかさっぱり理解出来ず、まあ平たく言えば俺にとってショウゴの存在は不愉快でしかなかったんだけれども」
「一言が長い上になんかホントムカつくなあんた」
「先日の一件で少々考えが変わった」
「は?」
突然耳元で声が聞こえ、テレビから目を離し振り向けば真横にサワケースケが立っていた。
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