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きみは誰のもの 50

◇◇◇◇  ダイニングテーブルに大人しく着席しているハルの目の前に、湯気の立つ沖縄そばをドンと置く。ソーキも上に乗っけてやったから、見た目も豪華なソーキそばだ。  器に目を落とし、それからおずおずと俺を見上げたハルは、ベッドでの勢いの影もなく、シュンと肩を落とした。 「省吾、ありがとう」  ハルの視線が痛いけどガン無視。  無言で箸をとり麺をすすり始めた俺の後からハルも小さくいただきますと挨拶し、箸を手にとった。 「ねぇ、省吾、飲み過ぎた俺が完全に悪かった、反省する。昨日の事はちゃんと確認するけど、記憶あやふやであれだけど、間違っても何かされたとかはないと思うんだ」 「何かも何も、あんだけ好きに跡つけられてなんだその弁解は」  しまった。ガン無視の筈がうっかり反論してしまった。 「だって腰にきてないし」  ぶほっ。  飛び散った麺を慌てて布巾で拭きながら、ガン無視体制を続ける俺。 「圭介の場合、泣き叫んで抵抗される事に興奮するタイプだから、動かないマグロにはまず興味がない」  そんな変態情報イチミリも聞きたくねぇよ。てかヤツの性癖を何故お前が見てきたように語るんだ。  ジロリと睨むとハルは再びシュンとして、大人しく蕎麦を食べ始めた。  滅多に飲まれないハルが昨晩酔いつぶれた事は、お偉いさんが集まる大事な学会で気にいられ酒をつがれたんだろうと思えば、しょうがなかったんだろうなとも思える。けど。  何が気に入らないって、普段あれだけ周りに隙を見せないハルが、サワケースケと二人きりの出張でアッサリ隙をみせた事に腹が立って仕方が無い。  シャワーを浴びて冷静になった俺が出した結論は、跡が完全に消えるまで指一本触れるなという約束。 「省吾、黙らないで。さっきはあんなに激しく求めてくれたのに」 「うるせー、言うな! あれはあんまりムカついて、ムカつき過ぎて、頭に血がのぼっただけだっ」 「キスもしちゃ駄目なの?」  キュンとくるような切ない顔したって、許すもんか。大体これが逆の立場だったら、間違いなく俺と相手はころされるだろ。間違いなく。  妙な妄想をしてブルリと身震いしたと同時に、リビングから着信音が聞こえてきた。  俺じゃない、ハルのスマートフォンだ。

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