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きみは誰のもの 54
電話を切り振り返ると、待ってましたとばかりに身を乗り出すハル。
「何を言われた?」
「何か飲むか」
「じゃあ烏龍茶おかわり」
冷蔵庫から烏龍茶のペットボトルを取り、スマホと合わせてハルの目の前に置く。
「ありがとう。ねぇ、圭介は省吾に何を言ったの」
明日本人に聞けばいいじゃねぇかと思いながら、俺は少し考えて頭に浮かんだ台詞を口にした。
「俺を調教したいとかいってたな」
「何だそれ?」
「知るか。本人に聞けよ」
ハルは不満気な表情のまま烏龍茶をグラスに注ぎ、それを一気に飲み干すと、食器を持って立ち上がった。
「ご馳走様。仕事部屋で報告書を書いてくるよ」
寝室の隣はハルの仕事部屋になっていて、そこに籠もると大抵夜まで出てこない。その集中力には毎度素直に尊敬している。
時計を見れば午後の三時を過ぎていた。
レンタルショップにでも行くかなあと考えていると、食器を洗い終えたハルがテーブルに肘をつき、俺の顔を覗きこんできた。
「ねえ、俺から触っちゃいけなくても、省吾からキスしてくれるならいいのかな?」
「屁理屈いってんなよ。とにかく触るな、近付くな」
思わず噴き出して笑ってしまった俺を見て、ほんの少し安心したのか、じゃあねと部屋を出て行った。
自分から言い出した手前、後にはひけないけれど、あの跡は一体いつ消えるんだと、少々気が重くなる。それもこれもあの男のせいだ。
(くそ、とんでもねぇヤツだ)
はあと大きく息を吐き、さてこのあと何をするかと改めて何をするかと考える。眠気もすっかり取れたし、ぼけっとするとサワケースケの言葉を思い出して苛つきかねない。
久々に映画でも借りるかなと、重い腰を上げて外出する事にした。
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