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きみは誰のもの 57

◇◇◇  駅ビルの地下にある店内は、まだ昼間だというのに満席に近い状態で繁盛していた。見渡せば若い客層が多い。  完治と俺はカウンターに並び、ものの数秒で運ばれてきたジントニックで乾杯をした。 「省吾と二人で飲むって、かなり久々じゃね。大抵誰かしらいるし」  晃は必ずいるよなと笑う。 「晃といえば、退院してから暫く飲みにも顔出さなくてさ、あの晃がだぜ。流石に皆で心配したんだよなー。省吾、晃には見舞い以来会ってねーの?」  晃。  久々に聞いた名前に一瞬ギクリとする。 「ああ……てか地元に帰ってないし」  言葉を濁してジョッキを煽ると、完治は一人で勝手にぺらぺらしゃべり続けた。  それらを適当に聞き流しながら、正月の出来事を思い出す。  ほんの数ヶ月前の出来事なのに、あんなにショックだったのに、生々しさは消え、ふとしたらまるで遠い昔のようにも感じる。  なんでかなと考え、ああそうかと気付く。  ハルが、毎日、毎日。飽きもせず、全身で俺を抱きしめるからだ。  まるでこの世界の誰よりも俺は幸せなんじゃないかと思える程に、両手で抱えきれない程の愛情をくれるから。  ハルと晃が顔を合わせた時を思い出して思わず苦笑いが漏れ、気付いた完治に気持ち悪いなと突っ込まれた。 「そういやあの、名前なんだっけ、お前の番犬みたいなでかい奴」 「なんだよ番犬て」  ジロリと睨むと、完治は思い出したようにケラケラと笑い出した。 「ほら、病院の前で偶然会った時さ。俺がお前と喋ってる間、なんか知らねーけど俺の事すっげ睨んでたし。相変わらず同居人続いてんの?」  睨んでたのか。知らなかった。  確かにあの日のハルは、普段から想像出来ない位、気が立っていたと思う。

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