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きみは誰のもの 61
「どこに行ってたの?」
「駅前のレンタル屋……が閉まってて、隣駅のレンタル屋まで」
「そうか、ご飯もうすぐ出来るよ」
キッチンへ入ると、エプロンをしながら作業中のハルが、俺をみてほっと息を吐いた。
「リビングに省吾がいなくて、帰ってこなかったらどうしようかと思った」
なんだよそれ。
んなわけねぇだろ。
「誕生日のお祝い、外食にしようかとも思ったんだけど、今日はバタバタしてたし、家ご飯のほうがいいかなと思って。ケーキはホールで買っておいたよ」
冷蔵庫を開けると、どでかいケーキの箱。
ホールってか、でかいだろこれ。どう考えても。
「簡単だけど見て、省吾の好きなもの。チキンのトマト煮と、これは必要でしょ、コーンポタージュ」
誕生日はいつも母親がコーンスープを作ってくれた。そんな話をこいつは一体いつまで覚えているんだ。
「誕生日だから今日はシャンパンを」
「ハル、報告書は」
「ん? うん、あと少しだよ。夜にまた……」
「なんで買い物とかいってるんだよ、お前が忙しい時は俺がやるし」
「うん? でもほら誕生日、ちゃんとやってないから今日」
「俺はお前の仕事の邪魔をしたくない」
「え?」
「俺はお前の、荷物になりたくない」
湯気のあがる鍋がぼやけて、俺は下を向いた。
「省吾?」
心配そうなハルの声が聞こえてきた。でも肌には触れてこない。
昼間の約束を、ハルはちゃんと守る。
「省吾、どうして泣くの」
涙がぽたり、ぽたりと頬を流れて床に落ちた。
なんで泣く。
俺が聞きたい。
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