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きみは誰のもの 63

 寝室へ移動し、母親へ電話をかけてみる。  五コール鳴ってから、いつもと変わりない母親の声が聞こえてきた。 『もしもしー』 「荷物届いた、ありがと」 『お友達に迷惑かけてない? 家事とかちゃんと分担してるの?』 「やってるよ……」 『そうそう、この間完治くんに会ったわよー。すっかりいい男になっちゃって、一瞬わかんなかったわー」  カラカラと笑う母親の声は元気そうで、俺は少しほっとした。 「母ちゃん元気そうだな。ハワイ行ったオッサンとは仲良くやってんの」  と口にしたのが失敗だった。 『全然元気じゃないわよ! もう聞いてよあの人、前の奥さんとまだちゃんと離婚してなかったの! あったまきたから別れてやったわ! 大体ね……』    その後延々と母親の愚痴に付き合わされ、タイミングを見つけて話を切り上げた時には二十分が経過していた。  昔からこんなだから今更驚かないし諦めてもいるけど、息子に恋愛話を愚痴るとか、本当に勘弁して欲しい。 「あのさ、母ちゃん何か食べたいものあるか」 『なに、ご馳走してくれるの』 「たまにはな」 『A5ランクの焼肉!』  素直に喜ぶ母親の声から、いつも見てきた笑い顔を想像して、ふと頬が緩む。  電話を切る直前に名前を呼ばれて返事をかえすと、一呼吸おいて話し始めた。 『誕生日がくるたびにお母さん、あんたが生まれてきてくれてほんとによかったって思うのよ。ありがとね』  何でだろう。  今までそんな改まって言った事、なかったくせに。  何で今なんだろう。  俺は母親に、かえせるものが何もないけれど。  ないどころか、なんの望みも叶えてやれそうにないけれど。  そんなの全部飛び越えた先で、母親は俺を抱きしめてくれた。  

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