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きみは誰のもの 64

 リビングへ戻るとダイニングテーブルには既に料理が並び、カウンター越しに顔を出したハルが、早く座ってと笑顔で言った。  サラダと、チキンをトマトで煮込んだもの、それから卵色のスフレみたいなもの。なんだろう?それから……。 「短時間でよくこんなに作れるよなお前」 「全部簡単なものだけど。この手際の良さはいい嫁になるよね」 「……」 「俺、省吾の嫁になるんだから」 「……」 「今更やっぱりナシとか本気で許さないからね」 「……」  完全に本気姿勢のハルをマジマジと見上げながら、そうかと独りごちる。  そうか。ハルはやっぱり、嫁でいいのか。  改めて考えたら何だか可笑しくなってきて、思わず口元で笑ってしまった俺をハルは見逃さない。 「なに?」 「いや……腹減った、し、うまそうだし」  うんうんと頷きながらシャンパンをあけるハル。 「すげぇ、嬉しい」  掠れて聞こえない程の声でありがとうと言うと、ハルは目を細めて笑い、グラスにシャンパンを注いでくれた。  シュワシュワと気泡が音を立てる。 「改めて、誕生日おめでとう」  グラスを掲げてお互いを見つめ、ハルと俺は多分、きっと、同じくらいに幸せな笑顔を浮かべた。  その夜ハルは言葉通り食事を終えると仕事部屋へ再び篭り、俺は先にベッドで眠りについた。  人の気配にふと眠りから覚め、目をつぶったままハルが仕事終わったんだなとぼんやり考えていると。 「省吾……寝てる?」  寝てる奴を起こすなよと思いながら黙ってやり過ごそうと、寝たふりをしていると。  ふわりと、唇に何かが触れた。  それはすぐに離れ、やがて何事もなかったかのように、ハルの寝息が聞こえてきた。  俺は寝ていたし、何もみてないし、感覚なんてほんとかどうかわからないし、だから、そう。  ハルは約束を破ってはいない。  自分を無理矢理納得させている自分を馬鹿だなと思いながら、俺は再び静かに眠りについた。

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