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きみは誰のもの 65
◇◇◇
GWも明け、忙しい日常生活に戻った。
この週末にはあの忌まわしい跡も消えて解禁かと身構えていた矢先、どっかの何かのヘルプだとかで、日曜日には帰るからとメッセージひとつ残し、北海道へと飛んでいったハル。
ほっとしたような、少し寂しいような、複雑な心境の中。
これも良いタイミングかと、母親を食事に連れ出す事にした。
待ち合わせは新宿。
で、現在に至る。
「一時間遅れる? なんで」
『それがね、外に出るなり車に泥水かけられたのー! 大事なワンピースなのに信じられない! とりあえず洗濯機かけて着替えてから出るから、待ってて~』
空を見上げればあいにくの雨。激しくはないが朝から地味に降り続いている。まるで自分の心みたいだ。
もともとの約束の時間は一時間後だから、正確には二時間空きができてしまった。
「わかったよ、じゃ店の予約も一時間遅らせておくから。慌てないでゆっくり来いよ、こけて骨折られたら困るし。店はわかるか」
『わかんないから新宿ついたらまた電話する』
「はいはい……」
電話を切り、はあとため息を吐いた瞬間。
「一時間空いたんだ?」
突然背後から囁かれ、ぎょっとして振り返れば、イチミリも会いたくない男が爽やかな笑顔で立っていた。
「さ、サワケースケっ!」
「どうでもいいけどきみ、いつも俺の事フルネームで呼ぶよね。面白いけど、圭介でいいよ?」
「誰が呼ぶかっ、お前なんてフルネームで十分だ」
よくわからない事いうねと笑う。笑ってるだけの表情なら、女もころっと陶酔するような、いかにも優しげでいい男。性悪のくせして、胸くそ悪いったらない。
「なんでここにいるんだお前」
「出張の帰りでね。大抵ここで乗り換えるんだ」
そうか、よほどの用事がない限り、新宿をうろつくのはやめよう。
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