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きみは誰のもの 66
「それより一時間空いたって言ったね」
「だからどうした、ひとの会話盗み聞いてんじゃねぇよ」
「これから少し、友達の店に顔を出そうかと思っていたんだ。一緒にどうかな」
「誰がお前なんかと」
「ハルも常連の店だから、面白い話も聞けると思うよ?」
ぴくりと身体が反応する。新宿でハルが常連の店なんて、聞いた事ない。
「聞いた事ないって顔してるね。だからこの間も言ったけど、ハルと俺は付き合いが長いから。きみよりもずっと」
目を細めて微笑むその顔をどうにか殴ってやりたくなる。
一言一言、腹が立つ。確信犯な所も、腹が立つ。
「はは、怒るなよ本当の事なんだし。それとも自分が知らないハルを知るのは怖い?」
サワケースケに完全に乗せられたと思う。一時間限定という状況に少し安心した気持ちもあったと思う。予想しなかった自分がアホだったとも思う。
連れて行かれた先は、ぱっと見の外観はどこにでもある普通のバー。
でも鈍い俺でもさすがにわかる場所にそれは建っていた。
「いらっしゃーい」
「あ、ケイちゃんが可愛い子連れてきてる」
店員達の笑顔に迎えられ、固まった俺の背中に手をかけ中へと引き入れるサワケースケ。
「うん、偶然会ってね。少し時間が空いたっていうから連れてきちゃったんだ。ハルのショウゴ」
なんだその紹介はと文句をいってやろうと口を開くよりも先に。
「ええええ! うそ、でかしたケイちゃん!」
「ハルのショウゴって、あのショウゴ!?」
なんだこいつら、客を呼び捨てに連呼するとかおかしいだろどう考えても。
といってやりたい所だけれども、それよりもカウンターに座らされるなりドッと周りを男に囲まれ、興味津々の表情で食い入るように見つめられたその恐怖に、俺はやっぱり固まってしまった。
ああ、やっぱり。
サワケースケの言葉に乗せられて、こんな見知らぬ場所になんて来るんじゃなかった。
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