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きみは誰のもの 69

 黙ったままの俺に気付いたのか、夏音はあれっと声を上げた。 「ショウゴ、もしかして知らなかった?」  視界の端で隣のサワケースケが口を開きかけた時。 「夏音。ハウス」  マスターが綺麗な顔を少し歪めて静かに言うと、夏音はえええと声を上げた。 「何で、本当の事言っただけじゃん」 「ハウス」  マスターがもう一度言うと、夏音は観念した表情ではぁいと小さく返事をして、大人しくバックヤードの中へと消えた。お仕置き部屋でもあるんだろうか。 「ショウゴくんゴメンね、あの子、子供だから」  フォローするマスターの言葉を聞きながら、俺は少し考えて、軽く首を振った。 「別に、どうでもいい」  ジンの香りを感じながら、不思議と心が軽くなった気がした。  ハルとサワケースケが過去にそうだったという事実が、モヤモヤしていた気持ちの中で、すっと枠にはまったような。霧が晴れたような気持ちだ。 「詳しく語る必要はないと思うけど」  かランと音がなり、隣に視線を向けると、サワケースケはグラスを傾けたまま、グラスから俺へと視線をずらした。 「あの頃はまだ若かったし、ハルが俺に恋愛感情を抱いた事は残念ながら一度もない」  実に残念だと言うように眉を寄せたサワケースケを見て、思わず笑ってしまった。 「この先も、ねぇよ」 「それはわからないよ、人生はまだ長い」 「しつこい奴だな」 「人生の最終ラウンドに、ハルが俺の所へ来てくれたらいい」 「いかねーし、いかせねぇよ……」 「しつこいねきみ」 「いやお前だろ」 「ハルを手に入れる前に、ショウゴを飼い慣らすという目標が増えた。人生は楽しいね」  あほか。  極上の笑顔を向けてグラスを掲げるサワケースケを無視してグラスを飲み干すと、乾杯してくれないのかとサワケースケ。  誰がするか、お前なんかと。

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