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きみは誰のもの 70
「もう行く」
立ち上がり財布を取り出した俺に、お代はいらないよと笑顔のサワケースケ。
「ハルは北海道だろ、誰とデート?」
「母親」
「へぇ? 優しいんだな、孝行息子だね」
「気持ち悪い事言うな、普通だろ」
振り返ると、少し驚いた表情のサワケースケがいた。
「……ああ、もしかして」
「? 何だよ」
「昔ハルに、誕生日は親に感謝する日だって、言った事ある?」
「さあ? 言ったかもしんねーけど、覚えてねぇな」
「そうか」
くっと笑うサワケースケをひと睨みしてから店の扉を開けると、外の雨は止んでいた。
笑顔で手を振るマスターに軽く会釈をして扉を閉め、駅に向かって歩き出す。酔いを冷ますために、少し散歩でもするか。
さっき聞いた話は、ハルには黙っておこう。あいつが話さないなら、俺は知らない方がいい。でも知って良かったと、少し思う。
再び訪れる日が来るかどうかはわからないけど、悪い店じゃなかったなと思った。
ふと、そういやあの夏音て奴、どうなったんかなと思い出したけれども、まあいいかとすぐに忘れた。
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