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きみは誰のもの 71
◇◇◇
メイン通りから外れた静かな通りに店を構える小さな焼肉屋。
全室個室で落ち着いた空間の中、上機嫌な表情で網に肉を並べていく母親を眺め、それからトングを器用に使いこなす母親の指先に視線を落とす。
ほんのりと目立たない程度に色塗られたピンク色の爪先。
「何で爪に色付いてんの」
「あ、どうこれ、会社の女の子に勧められて、やってみたのジェルネイル。薄いピンクのグラデーションが可愛いでしょ!」
「若いのと一緒にはしゃいでんのかよ、職場は平気なのか」
「この位平気だってば。息子とデートだって話したら、じゃあお洒落しちゃおって会社の子がー」
頬杖をついていた右肘ががくりと傾き態勢を崩した俺を気にする様子もなく、ジュウジュウとうまそうな音をたてる肉をぱたんぱたんと引っくり返す母親。
「何がデートだ、職場でアホな事言ってんなよ」
そういやサワケースケにデートかと聞かれた時、気にもせず母親と答えてしまった気がする。失敗した。
「いいじゃない、久しぶりなんだから。それよりあんた、ちゃんとデートしてくれる人はいるの?」
肉厚の特上カルビを俺と自分の小皿へ乗せながら、母親は笑った。
質問から逃げるように、慌ててジョッキに口をつけた俺を見て母親は更に笑う。
「仕事は忙しい?」
「んー、まあ、とりあえず毎日寝る時間はある」
「じゃあ大丈夫ねー」
「そっちは」
「楽しくやってるわよ」
「身体は元気なのか」
「元気元気。あ、最近太極拳始めたの」
「太極拳?」
「うん、大会出る時は見にきてね」
太極拳、ねぇ。大会って、どんな事やるんだ。
妙な手つきで説明をする母親を眺めながら、でもまあ相変わらずアクティブに人生を謳歌しているなら良いかと少し安心した。
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