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きみは誰のもの 72
「そうだ、俺、この間沖縄行ってきたんだ」
「沖縄?」
「隣のジュン兄、覚えてるか」
「ジュンちゃん? 勿論覚えてるわよ、優しくて可愛い子だったよねえ」
「偶然ばったり会ってさ、おばあの墓参りも一緒にしてきた」
母親は驚いた表情で口に入れたカルビをゴクンと飲み込んだ後、烏龍茶を喉へと流し、それからやっと口を開いた。
「ジュンちゃんと、お墓参り……そうなの、おばあ喜んだでしょう」
そういって、嬉しそうに笑った。
「ジュンちゃん元気だった?」
「ああ、元気だった」
変貌ぶりにはとりあえず触れず。
「今度、母ちゃんも一緒に行くか。墓参り」
小皿に置かれたタン塩にレモンをかけ、パクリと口に入れた時。
「そうね、あんたと一緒に行った事なかったもんね」
ゴクンと飲み込んだ後、いや待てと母親の言葉をもう一度頭の中で繰り返した。
あんたと、一緒に?
「て、沖縄まで墓参り、母ちゃんは行ってたのか?」
「ん? まあ、数年に一回だけどね」
「いつ!? 聞いた事ねーぞ!」
「んー、あんたが修学旅行行ってた時とか。話してあんたも行きたがったら交通費大変じゃない」
「し、信じらんね……俺はてっきり、あれから一度も行ってないのかと」
カラカラと笑う母親。
交通費けちって息子に内緒とか、なんて母親だ……。
「あんたが大人になって落ち着いた頃に、一緒に行こうと思ってたのよ」
「あっそ……」
「ほらどんどん焼けるわよ。省吾、ビールのおかわりは? ね、ホルモン頼もうか」
チャキチャキと手を動かしながら呼び出しボタンで店員を呼び、ビールとホルモンを注文する母親。
美味しいねと嬉しそうに頬を綻ばせる母親を見たら気が抜けて、まあいいかとため息をひとつつき、俺も小さく笑った。
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