389 / 428

きみは誰のもの 79

「ハル」 「うん?」  俺の首筋に唇を当てたまま返事をされてくすぐったい。 「俺さ、母親に話した」 「何を?」 「お前の事」  ハルの動きがピタリと止まる。 「だからさ」 「何て?」  身体が離れ、俺の顔を正面から見つめるハルの瞳は少し不安そうに揺れた。 「何てって、そのまんま……この先ずっと一緒に居たい相手だって」  瞬きをひとつしたハルに言葉を続ける。 「勝手にして、悪かった、けど」 「違う、そうじゃない、そうじゃない……」  ハルは下を向き、何度も首を振る。  俺はハルの首に腕を回し、柔らかな髪に鼻を埋めた。いつもの、シャンプーのにおいがする。ハルが気に入っていて、半ば無理矢理同じものを使わされるようになって、気付けば俺もこのにおいにすっかり馴染んでいる。  ハルと俺は、おんなじにおいがする。 「お前が良ければ今度、会って欲しいんだけど、まあいつでも……」  言い切る前に背中をぎゅうと抱きしめられた。 「ありがとう……会いたい、省吾のお母さんに」  一瞬、ハルが泣いているんじゃないかと心配したけれど、顔をあげたハルは嬉しそうに、微笑んでいた。  それを見てほっと息をつき、それからグルルと腹が鳴る。 「腹減った」 「うん、パンと目玉焼きにしようか」 「俺がパンを焼くから、お前は目玉焼き」  簡単な方を自分の仕事にしたのがばれたのか、ハルはクスリと笑い。何気ない口調でこう言った。 「ああ、省吾を監禁して俺だけのものに出来たらいいのにな」  …………。 「これまでの会話のどこからそうなるんだよ」 「ん? いつも考えてるよ」  笑顔が怖い。  怖すぎる。  半ばため息交じりに頬を緩め、キッチンへ移動するハルの背中を見つめた。  この幸せがずっと続くなんて、お伽話かもしれない。  でも、幸せでいるための努力なら出来る。  何があっても、この気持ちは離さないと決めたんだ。  二人で食卓を囲み笑い合える、最高の幸せをかみしめながら、笑うハルを見つめて俺も笑った。 〈きみは誰のもの:終〉

ともだちにシェアしよう!