398 / 428

25時のメリー・クリスマス(社会人五年目 冬)1

 十二月二十四日。  ハルと外食を約束していたはずの俺。二十一時現在、職場の後輩と二人、ダイニングバーで向かい合って酒を飲んでいる。こうなったのも別に俺が約束を破ったわけではなく、ハルから仕事が抜けられなくなったと連絡を受け、約束がキャンセルになってからの、帰りが一緒になった後輩に誘われての、まあ断る理由もないしと、そんな流れ。  つい数分前までは楽しく飲んでいたんだ。そこまでは良かった。  それが何だ。今のこの状況。空気が重い、重すぎる。  それもこれも、後輩の岡田が突然とんでもない事を言い始めたから。 「俺、香取さんの事が好きなんです」  何だよ改まって照れるじゃないかと笑って返せば。 「本当に、好きなんです。お願いします、俺と付き合ってください」  いやいやいや、おかしいだろ。 「……お前、頭打ったんか?」 「違います! ずっと……こっちに配属されてからずっと俺、香取さんの事が好きで好きで、好きで……夢でめちゃくちゃ犯しちゃうくらい本当に」  待て待て、待て。さらっと問題発言飛ばしすぎだろ。 「岡田、とりあえず落ち着け」  グワングワンと耳鳴りがするのは酒のせいか。 「お、落ち着いてます、でももう、耐えられなくて……お試しでもいいんです、お願いします、俺と付き合ってください、お願いします!」 「ここ店。頼む、ボリューム下げてくれ」 「す、すみません」 「あー……、岡田、あのな……」  その時スマートフォンに着信が入り、表示を見ればハルの名前。 「げ」 「誰ですか」 「いや、ちょっと……電話してくる」  慌てて席を外し、通路脇で電話に出てみれば、開口一番、不機嫌全開な声。 『周りが騒がしい。どこにいるんだ』 「後輩とちょっと飲んでる。何だよ、仕事終わったのか?」 『うん、これから帰る。すぐに帰るから、省吾も今すぐ切り上げて』  何だそりゃ。

ともだちにシェアしよう!