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25時のメリー・クリスマス 4

 タクシーを降りるなりよろめいた俺は、次の瞬間、岡田の肩にかつがれていた。 「ちょ、離せ、降ろせっ」  抵抗も空しく、俺より体格の良い岡田は俺の体を担いだまま悠々とマンションの階段を上っていく。  三階に上がったところで階段すぐそばの扉をガチャリと開け、そのまま部屋の奥へと進んで行く岡田。 「待て、岡田、靴脱いでないっ」 「ああ、すみません」  忘れていたといわんばかりの表情で俺の足からスポリスポリと革靴を脱がすと丁寧に玄関の隅に置いた。  そのまま俺も降ろしてくれと言った俺の言葉は完全に無視されて、奥の部屋へと進んでいく。  再び扉を開き電気をつけるとそこは寝室で、やっと降ろして貰ったとホッとしてはいられない、まさかのベッドの上。 「ほら、具合悪いんですから横になって」  見上げた岡田の表情がなんだか確実にいつもと違う気がして、俺の中で危険信号が鳴り響く。  いやいやまずい、絶対にまずい。 「具合、治った、帰る」 「何言ってるんですか、そんなわけないでしょ」  語気を強めた岡田に身体をベッドに沈められ、布団を掛けられた。  それから俺の額に手を置き、熱いなと呟いた岡田はニコリと微笑んだ。 「お水持ってきますから、少し目をつぶって休んでいてください」  そういって静かに部屋を出て行った岡田の後姿に少し拍子抜けした俺。  ……警戒しすぎたか? (でも、そうだよな、いくらなんでも職場で毎日顔つき合わせてるのに突然やらかしたりはしないよな)  そう考えたらなんだか急に気が抜け、同時に激しい頭痛に襲われた俺は、耐え切れずに両目を閉じた。目をつぶっても、目の前がぐるぐると回っている。 「最悪だ……」  呼吸を繰り返しているうちに、ほんの少し楽になってきた気がする。目を閉じたまま身体を横に倒し、背中を丸めて縮こまった。  このベッドから早く出たい。このベッドは落ち着かない。ハルのにおいがひとつもしない。 (早く家に帰ろう……)  ハルが鬼みたいに怒ってる姿を想像しながら、ゆっくりと意識が離れ、やがて眠りに落ちた。  

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