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夏の王様 3

 ソファの背に身体を預け、長い足を組み、額に落ちた柔らかな髪を右手で掬い上げる姿をまるでどこぞの王国のプリンスのようだと、以前青木が言った言葉を思い出す。  思えば恋人関係を結んだ当初は、およそ完璧な容姿を持つ同性の男が自分の傍にべったりと張り付き離れないという特殊な状況に対応できず、その度にむず痒さを覚えたけれど、今では傍にいるのが当たり前で、むしろ居ないと落ち着かない事すらあるのだから、人生とは本当に何が起きるかどう転ぶかわからないものだ。  美人は三日で飽きるという言葉があるが、あれは間違いだ。美人は飽きるわけじゃない、慣れるだけだ。  凛とした眉に目力のある琥珀色の大きな瞳、スッとした鼻筋。引き締まった口元は自然と口角が上がり、柔和な表情を作っている。  額から眉、目、鼻に口まで完璧なパーツバランスで文句のつけどころのない端正な顔立ちは、全てが自分には無いもので、羨ましいとまでは言わないが、見ていて気持ちは良い。  外ではきっちりと身だしなみを整えて寸分の隙も見せない男が、家では寝ぐせのついた髪に無防備な部屋着姿で生活する日常の一コマも、愛しく思える。  とはいえ本人を前にそんな事を口にしたら浮かれるのは目に見えているから、自分の心の中だけに留めている。うっかり調子に乗らせてしまったら、想像の斜め上を行《ゆ》く行動を取りかねないのだ、隣でチラシを眺めているこの恋人は。 「省吾とペアか。悪くないな」 「さすがハル! そう来てくれると思った!」  万歳と両手を挙げる青木に冷ややかな視線を送りつつ、隣のハルをジロリと睨む。 「何いってんのお前。俺は出ないぞ、面倒臭い」  ハルはチラシから顔を上げると省吾の顔を見つめニッコリと微笑んだ。 「優勝したら賞金の他に高級アワビと熱海老舗旅館へ一泊旅行券だって。 省吾、アワビ大好きでしょ」  賞品につられて参加する奴なんているのかと思っていたら、ここにいた。 「それに省吾は何かきっかけがないとなかなか旅行へ出てくれないし、丁度良い。ね、省吾、一緒に出て優勝しよう」

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