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夏の王様 4
ニコニコと満面の微笑みを浮かべる恋人に白けた視線を向け、はあと大きくため息をつく。出不精の自分を理由に参加する気になったところまではわからなくもないが、優勝する前提というその自信はどこからくるんだろう。
ハルが一度言い出したら他人の言葉など聞く耳を持たない事は、うんざりする程に経験済みだ。その性格に今まで何度振り回されてきた事か。
「やった、決まり決まり! 夏を楽しもう!」
はしゃぐ青木にお前も出るんだろうなと訊ねれば、勿論出るよと返ってきた。そういえば昨年開催された職場のバレーボール大会で、青木が結構な戦力だった事を思い出す。学生時代はバレー部だったとか言っていたような気もする。
「伊勢さんが一緒に出てくれるんだー」
ケロリと放たれた青木の言葉に驚き、思わず「マジか」と言葉が漏れた。
伊勢は青木と省吾が所属する営業所の先輩で、社報にカリスマ営業マンとして掲載された事もある。色んな意味で凄い人で、勿論省吾にとっても憧れの存在だ。
どんな状況下でも涼しげな表情でスマートな立ち振る舞いのあの人が、ローカルなお祭り騒ぎ、しかも炎天の下で砂にまみれてボールを追う姿なんて、少し考えても想像するのは難しい。しかもお猿の青木とペアとは。
「伊勢さんがこういうのに興味を持つなんて、なんつーか意外だな」
軽く顎を摩りながら呟いた直後、隣からぼそりと低い声が聞こえてきた。
「伊勢さんて、リングの人か」
振り返るとハルの顔から笑顔は消え、じとりと俺を睨んでいる。何の事かと一瞬考え、「あー」と中途半端な相槌を打った。
(あの件か)
数ヶ月前の出来事を思い出す。
ハルへの誕生日プレゼントを買う為に伊勢さんに付き合って貰った事がバレて、真夜中に散々絡まれた事があった。
以前ハルがチェックしていたリングを買おうと決めていたのだけれど、自分自身がアクセサリーなど余り買わないから少し迷っていて、伊勢さんと営業同行した時にチラリと相談してみたのだ。そこで伊勢さんがよく利用する店だとわかり、好意で買い物に付き合ってくれたというのが事の真相だ。
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