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夏の王様 5

 省吾としては本当に助かったし有難い事だったのだけれど、ハルからしたら大問題?だったらしく、デートだの浮気だのとブチ切れられて、えらい目にあった。  こっちはもう忘れたい案件だというのに、この様子じゃ向こう十年は事あるごとにつっかかられそうだ。とんでもなく面倒くさい。  ハルと省吾との間に生まれた不穏な空気にまるで気付いていない青木は、楽しげに言葉を続ける。 「勿論始めは断られたんだけどさ、俺と伊勢さんが参加するなら応援に行くってアヤカちゃんが言ってくれた瞬間にコロリとね。あの人、ほんとアヤカちゃんにだけは弱いよね~」  あははと笑う青木。その言葉、伊勢さんの前では言わない方が良いと思うぞ……と思いながらも黙っていると、隣のハルが青木の言葉に反応を示した。 「ミツルも来るの?」  見れば嬉しそうに目尻を下げている。  綾香ミツルは、省吾が所属する営業所に在籍している営業アシスタント社員で、ハルの地元仲間だと聞いている。近々仲間内の結婚式があるとかで、最近は頻繁に連絡を取り合ってもいるようだ。  ハルが自分の過去を話す事は余りないけれど、その中でも地元仲間の話題は時々する。反応の薄い省吾に話をして楽しいのかどうかは謎だが、ハルが楽しそうに話すので、省吾はそれを黙って聞くだけだ。  さておきアヤカの話題でハルの機嫌が良くなったならば助かったと、省吾はハルに気付かれないようにそっと胸を撫で下ろした。  そんな省吾の心の内など知る由も無い青木は、浮かれた様子で勢いよく立ち上がり、勝手知ったる他人の家とばかりにキッチン奥の冷蔵庫へと向かい、自分が手土産に買ってきた缶ビールを三本取り出し、再び戻ってきた。 「さて、話も纏まった事だし、乾杯しよ、乾杯!」  その瞬間、省吾の脳裏に嫌な予感が駆け抜けた。 「乾杯ってお前、それ一本飲んだらすぐ帰れよ?」  念の為に釘をさせば、わかったわかったと軽い返事が返ってきた。 (こいつまさか、泊まる気じゃないだろうな……)  以前もこんな調子で飲み始め、結局潰れて泊まっていったのだ。金曜夜だし、確信犯のような気がしてならない。

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