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夏の王様 7

 相手が自ら話せば聞くけれど、こちらから踏み込む事をしない。相手の懐に入る術を学ぶ事なく生きてきた省吾にとって、いざ相手を知りたいと思ってもどう接して良いのかわからず、ハルに対しても多分きっと未だにうまく出来ていない。  チーズを齧りながらふと、ハルの幼少時代が気になった。思えばその辺りについてあまり話を聞いた事がない。  そんな事をぼんやりと考えていたら突然肩を掴まれ、視線を向ければハルが満面の笑みを浮かべて自分を見つめている。さっきも見たなこの顔。 「喜んで参加するよ、ね、省吾」 「……」  ハルと青木の会話を全く聞いていなかったから、二人がどんな話をしたのかわからないけれど、青木に対する信頼度が上がりでもしたのだろうか。 (絶対怪しいのに)  省吾はハアと大きくため息をつき、わかったよと渋々に返事をした。 ◇◇◇  その夜、省吾の不安は的中した。 「やっぱりこうなるんじゃねぇか」  苦々しく舌打ちをすれば、ハルはしょうがないよねと言って笑った。 「まあまあ飲んだよね。缶ビール全部あけてからワイン二本あけちゃったし」  酔い潰れた青木は前回同様リビングのソファで鼾をかき始め、ハルは寝室から毛布を一枚持ってきて、青木の上にそっと掛けている。  先程まで散々青木を苛めて楽しんでいたくせに、こういう所はきちんと紳士的な奴だよなと思いながら、省吾は冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り出し、ゴクゴクと気持ち良く喉へと流し込んだ。ハルに「俺も」と言われて持っていたボトルをそのまま渡せば、ハルは残り半分を一気に飲み干す。  酒の弱い省吾は時々ハルに注意されながら自分のペースで飲んでいたので、大した量は摂取していない。空になったアルコールはほぼ青木とハルの腹の中に収まっている。  ハルに関してはまるで酔った様子もなく、こいつの身体は一体どうなっているのかと時々本当に不思議に思う。  その夜、寝室のベッドに横になるなり伊勢の話をぶり返された挙句、隣の部屋で青木が寝てると言ってもまったく聞いて貰えず、散々ねちこく身体を弄られ攻められて、明け方まで寝かせてもらえなかった。  翌朝改めて文句を言えば、スッキリとした表情で「ちょっと酔ってたかも」と笑顔で返された。嘘だ、絶対に嘘だ。  省吾はこの一件で、今後週末夜に青木を家に招くのはやめようと心に決めた。

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