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夏の王様 11
省吾の呼び声に気付いたハルはぴたりと口を閉じる。頼むから余計な事は言うなと目で訴えた時、口を閉じたハルの代わりに、綾香がハルの紹介を始めた。
それに対して微かな相槌を打ってはいるものの、明らかに無愛想な態度は崩さない。
普段はこんな人じゃないのになと、再び珍しいものを見た気持ちで三人を眺めた。
下手にライバル視されてハルもお気の毒だなと軽く思いながら手にしていたペットボトルのふたを閉めていると、挨拶を終えたハルが省吾の隣へと戻ってきた。
「気に入らないな、あの人」
戻るなり小声で耳打ちされ、笑いかけた口元を慌てて右手で押さえる。伊勢の態度があからさまだったとはいえ、ハルも初対面の相手にそんな事をいったりもするんだなと珍しく思った直後。
「来るなり省吾にあんなに擦り寄って耳打ちするなんて、先輩とはいえ馴れ馴れしい」
そこかよ。
(つーか擦り寄ってもいねぇし、耳打ちもしてねぇよ。こいつの目どうなってんだ)
見ればお互い白々と睨み合っている。
どっちの誤解もどうでもいいけれど、今日一日は表向きだけでも仲良くやって頂きたい。
「皆、受付するよ! ハルと香取もこっちへ来て」
満面笑顔の青木に急かされ、二人で受付正面へとまわった時、周りより一際大きな声が響き渡った。
「お、真吾、来たね!」
何事かと正面を見れば受付ブースからスラリと背の高い女が現れ、青木の背中を力強く叩いた。バシンと派手な音が響くと同時に痛ぇ!と青木が悲鳴を上げた。一体何の洗礼かと驚き目の前の女を凝視しても、特に悪意はなさそうだ。
「この人、うちの姉です」
背中をさすりながら青木が簡単に紹介すると、改めて見れば目鼻立ちが青木と良く似ているお姉さんはグッと口角を引き上げ、弟がお世話になってますと片手をあげた。話を聞けば、このイベントの実行委員長らしい。
なんていうか、見た瞬間に力関係のわかる姉弟だ。姉が強そう過ぎる。
青木は女子社員の扱いが上手いと思っていたけれど、この姉に鍛えられたものなんだろうなと、妙に腑に落ちた。
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