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夏の王様 12
軽い挨拶を終え、皆がそれぞれ受付手続きを進める中、恐らく自分だけが気付いてしまった。
青木と青木姉の、黒い会話。
「でかした真吾、いいオトコ達を揃えて来たね」
「あとは地元仲間から四チーム参加するから、条件突破」
「そうね、約束どおり例のものはあんたに譲るわ」
「やった!!」
……青木。
青木姉が本部テントの中へ消えた直後、青木の首を絞めてやろうと腕を伸ばしたその時、青木を呼ぶ元気な声が後方から聞こえてきて、ハルと省吾は同時に後ろを振り返った。
「青木ーー!」
青木と省吾の間に走り込んできたのはちっこい男で、勢いよく青木の懐に飛びついた。
「青木、会えてよかったあああ!」
「わっ、矢嶋?! 随分と熱烈な再会じゃん、元気そうでなによりー」
吸い込まれそうな位真っ黒で大きな瞳が印象的なちっこい男は、どうやら青木の知り合いのようだ。青木は自分にしがみついたまま離れない男の頭を、まるで子供をあやすようにぐりぐりと撫で付けている。
「矢嶋ひとりなの? 水城は?」
「それがはぐれちゃって……スマホも繋がらないし」
青木の問いにしょぼんと頭を下げる矢嶋という男、じっと観察してみればどうも何かに似ている。ハルも隣で、あの子何かに似てるなあと呟いている。
「そっかあ、試合まで時間あるし、俺も一緒に探すよ! 香取、そういうわけだから皆に言っといて。行ってくるねー」
急に言葉を振られた省吾は、ああ?と聞き返したけれど、青木はそのまま手を振って男と通路へ向かって歩き出した。
青木と一緒にこちらを振り返り、ペコリと頭を下げたちっこい男の少し不安げな表情を見て、ああと気付く。ハルも同時に気付いたようで、省吾の肩をトンと叩き、わかったよと口角を引き上げた。
「あの子、何かに似てるなと思ったら、兎だ」
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