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8 口実

「あのさ、せっかくだからもう少し蓮二さんと一緒にいたいなって思っちゃったんだけど、どう?」  お互い着替えも済ませ、改まって智が蓮二におずおずと聞く。蓮二もこんな気分のまま智とこれっきりになってしまうのは避けたいと思っていたから、そう言ってもらえたのが嬉しかった。それでもやっぱり素直にはなれず、ぶっきらぼうな態度になってしまうのは真面目な蓮二の性格。気持を抑えつつ、この時間を少しでも引き延ばそうと話を続けた。 「ああ、別に構わないけど……智は腹は?」 「あ、ちょっと減ってる……」  記憶をなくすほど酔っ払っていたというのに、寝覚め元気に二日酔いにもならず、腹まで空かせてシュンとしているのが可愛い。 「近くにコンビニあるから、何か買いに行くか?」 「行く! あ! 俺が奢るからね! 泊めてくれたお礼に」 「はは、随分と安っいお礼だな」  智が奢ると言ってくれたけど、蓮二は特に食欲もなかったから飲み物くらいしか買うつもりがなかった。でも智のその気持ちが嬉しくて、「朝食はとらない派」などつまらないことは言わずに、俺も智と一緒に適当に何か食べようと浮き浮き考えた。  二人で近所のコンビニまで並んで歩く。元々人見知りな蓮二だけど人懐こい智の性格のおかげか、気付けば昔からの友人のように気さくに会話ができていた。それ以前に一目惚れした相手に変に緊張することもなく普通に接することができてほっとしている部分が大きい。昨夜のことを智が覚えていない以上、余計なことは話す必要はなかった。これから連絡先でも聞いて、新たな友人としてこの縁を切らないよう努めるだけ……  部屋に戻ると早速買ってきた食料をテーブルに広げる。コーヒーと菓子パン一つの蓮二に対し、パンにおにぎり、お菓子やデザート、ペットボトルのドリンク数本をドッサリと袋から取り出している智に唖然とした。 「俺が奢るって言ってんのに蓮二さん遠慮しちゃってそれしか買わねえから」 「いや、元々そんな食う方じゃないし、遠慮したわけでもねえし。てか智、朝っぱらからそんなに食うのか?」 「え? まさか〜! 蓮二さんも一緒に食おうよ」 「だから……腹減ってないんだよ俺は」  智は自分と一緒に食べようと、こんなにあれもこれも買ったというのか? そう思ったらなんだかその行動も可愛く見え、憎めないな、と蓮二は笑ってしまう。 「じゃ、じゃあさ! これ、冷蔵庫に入れておいて! 俺がまたここに来た時に一緒に……」  飲み物はともかくデザートは消費期限もあるし、そんなにとっておけないだろ、と口に出かかり蓮二は黙った。顔を赤くして、少し焦った様子でそんなことを言う智を見て、あれ? これってもしかして? と勘ぐった途端、智が観念したように話を続けた。 「もう、これ口実ね! 俺、また蓮二さんと会いたいから。デザートは食っちゃっていいからさ。デザートなくても俺、またここに来るから! お願い、連絡先交換して!」  早口で捲し立てる智を見て蓮二はちょっと考える。これは単純に「友達」としてまた会いたいってことでいいんだよな? そう思うも、智の態度を見ているとなんだか違うような気がしてならなかった。惚れた相手だから自分の都合のいいように色眼鏡で見てしまっているんじゃないかとも思い、蓮二は少し鎌をかけてみた。 「そんな焦って、なんか女を口説いてるみたいだな」  

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