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9 友達からでもいいから
冗談ぽく笑い智を見る。どうせ同じように智も笑って否定するか、冗談に乗ってくるだろうと踏むも、智は頬を赤くしたまま口を尖らす。
「蓮二さん、女じゃねえし……俺はちゃんと蓮二さんのことを口説きたいから、はい! 連絡先早く教えて」
「えっと。俺、男だけど?」
嘘みたいだと心が弾む。昨晩のことは記憶がなくても、嫌ではなかったということなのかと蓮二は嬉しくなった。
「そう。男の蓮二さんをちゃんと口説きたいから……友達からでもいいから、俺と連絡先、交換してください!」
初対面だった人間にこうも簡単に自分のセクシャリティを公言できる、この智の潔さが羨ましかった。
「友達からって……男の俺相手に、その先があるってのかよ」
蓮二は自分で言っていて少し悲しくなってしまった。
こうまでオープンにしてくれている人間にも、自分は何食わぬ顔をして偽りを口にする。素直に「自分も」と言えたらどんなに楽なのだろう、と溜め息が出る。でも今更そんなことを言えるはずもなく、蓮二は口を噤んだ。
「うん。多分俺、バイってやつなのかも。人を好きになるのにあんま性別気にしたことない……」
それを聞いて、浮いた気持ちが一気に下がった。
智は自分と同じ「ゲイ」なのかと期待した。でもそうではなかった。それは似ているようで非なるものだ。恋愛対象に自分も含まれることは確かに嬉しいとは思うものの、智にとって性別は関係ないのだとしたら、魅力的な女が現れたらフラッとそちらに行ってしまう可能性だってあるのだ。むしろ男女問わずなら、どちらか一方の性別相手より範囲が広いということで、考えれば考えるほど自分と恋仲になる可能性は低いのだと認めざるを得なかった。仮にそういう関係になれたとしても、自信のない自分はずっとモヤモヤとした気持ちになってしまうのでは、と不安になった。
そんなもの、個々の性差の問題ではないことなど頭では分かっているつもりでも、どうしてもそれを理由に言い訳がましい考えをしてしまう。マイナスの方へと考えが偏ってしまう。
やっぱり素直に喜ぶことなど蓮二にはできなっかった。
「どうしたの? 蓮二さん元気ない……って! もしかして嫌? 俺と連絡取り合うの」
「いや、そうじゃない」
「俺が言ったこと、同じ男なのに気持ち悪いって思った? ちょっと身構えちゃう?」
「そんなことない! そうじゃない…… 友達から、な。うん、よろしく」
蓮二は頭の中の嫌な思いをそっと隠し、智と念願の連絡先の交換を果たした──
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