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清春さんと初めて出会ったのは、3ヶ月ほど前のことだ。 その日俺は、大学時代の友人の宮守 奏(みやもり そう)と飲み歩いていた。 宮守が行きたいバーがあると言って、俺をそのバーに誘ったのが、足を運んだきっかけだった。 その小さなバーは、繁華街の外れの方でひっそりと営まれていた。オレンジ味を帯びた間接照明がレンガ造りの壁を淡く照らしている。そこにはマットなアイアン看板が添えつけられていた。BAR-KIYO-とあった。 女性同士でも入りやすそうなカジュアルな雰囲気だ。外から店の中を覗くと、2組ほどの客がいた。 こんなところにこんな店あったんだ。 穴場と言われたらそうかもしれない。それくらい主張しすぎない佇まいが、逆に好印象だった。人が多すぎる店内は落ち着かないので好きではない。 期待に胸を膨らませながら、宮守の後について、店に足を踏み入れた。 ほの暗い落ち着いた店内に、静かなジャズが流れていた。店内はやはり、さほど広さはなく、カウンターが7席と、テーブル席が6席ほどのこじんまりとした広さだった。 バックバーには、ビールやウイスキー、リキュールなどのボトルが所狭しと並べられており、控えめな照明の光を受けて光って見えるのが綺麗だった。 それを背中に、カウンターには2人のバーテンダーが立っていた。俺たちの入店に気付いた2人は声を揃えて「いらっしゃいませ」と迎え入れた。 そのうちの1人が、入店した客が宮守であることを認めると、にこやかに手を振ってきた。宮守も手を振ると、俺を引き連れてその男の前のカウンター席に腰を落ち着かせた。 「やっほー清さん」 「いらっしゃい奏ちゃん」 「だからその奏ちゃんっての止めてって」 「なんで?いいじゃん、可愛くて」 宮守が清さん、と呼んで親しげに話すその男は、三十路前後くらいの落ち着いた男だった。白のワイシャツに黒ベスト、Theバーテンダーといった装いだ。パーマをあてた黒髪が、彼の色っぽさを引き立たせていた。そうやってそのバーテンダーを観察していると、俺の目線に気付いたその人がこちらに顔を向けてきた。 「奏ちゃんのお友達?」 「そうっす」 「はじめまして。ここのオーナーの清春です。よろしく」 清春さん。だから清さんか。 「司っす」 「司、ね。覚えておくよ」 俺も名乗ると、清春さんは低く滑らかな声で、俺の名を口にした。それから俺の顔の特徴を頭の中に叩き込むように、じっと見つめてきた。吸い込まれるような濃い黒い瞳をしていた。そして、幅の広いくっきりとした二重瞼が、すごくエロくてぞくぞくした。 一瞬の出来事だった。 清春さんに、俺は一目惚れしてしまっていた。 2度目は、1人で訪れた。 嬉しいことに、清春さんは、本当に俺の事を覚えてくれていた。店に入って俺だと分かると、少し驚いたような表情を浮かべた。だがすぐに嬉しそうな笑みに変わって、長い指先で目の前のカウンター席に誘導してくれた。 「いらっしゃい、司」 あ、名前も覚えてくれてる。 まだ2回しか来ていないというのに常連気取りで、俺は清春さんの前に座った。 「来てくれたんだ。ありがとう」 「清春さんのお酒、うまかったからさ」 清春さんの作ってくれたカクテルは美味しかった。それに嘘偽りはないけれど、それよりも俺は清春さんに会いたいがためにこうして1人でやって来たのだ。 「それは嬉しいねぇ。今日も美味しいお酒、飲んでって」 何にする?と聞かれて、清春さんのおすすめがいいとオーダーした。 その日の店内には、俺の他にもう1人、客がいた。その客は男で、カウンターの1番端の席で、カクテルを飲んでいた。上品なスーツを着こなし、左の手首には高級そうな時計を身につけ、丁寧に固められた髪は清潔感があった。どこぞの社長のような、雰囲気漂う身なりだった。 なんか、異質だな、と思ったのが最初の印象だった。 男は手にしていた煙草をふかした。俺は煙草を吸わないが、パッケージが有名なデザインのものだったので、見てすぐに銘柄はわかった。マルボロだった。 「お待たせ」 男に気を取られていたせいで、清春さんの格好いいシェイカー捌きを見逃してしまった。 もったいないことをしてしまった。次こそしっかり目に焼き付けようと決心しつつ、カクテルを受け取った。 カンパリか何かだろう、とても綺麗で情熱的な赤色をしていた。

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