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その後も、俺は足繁く清春さんのバーに通った。宮守と来ることもあったが、1人で来ることの方が断然多かった。清春さん曰く、今では宮守よりも俺の方がこの店に訪れることが多いそうだ。
そして、あの異質な雰囲気を纏った男もこの店の常連らしく、頻繁に遭遇した。
男はいつも同じような席で、1人で飲んでいた。時折清春さんと親しげに会話をして、その時の清春さんはどこか楽しそうで、とても自然だった。妬いてしまうくらいに、2人を纏う空気感は、雰囲気のあるものだったように思えた。
通うにつれ、男と遭遇するのは、必ず日曜の夜だとわかってきた。
そして、その出来事が起こったのも、ある日曜日の夜だった。
「司、いつもありがとう。帰り気をつけて」
「うぃっす!今日も美味かったっす。またね清春さん」
清春さんに見送られて、俺は店を出た。去り際、ちらりとカウンターに視線を遣る。カウンターの、端の席。やはり今日も男が来ていた。俺が出たことで、清春さんの店の客はその男一人のみとなった。
店を出て、歩いて10分ほどたった頃に、俺は忘れ物に気が付いた。
腕時計だ。
清春さんに見せてと言われて取り外したあと、そのまま付けずにカウンターに置いたままにして出てしまった。
携帯を取り出して時間を確認すると、時刻は23時手前だった。まだ店は空いているはずだ。
次回店に行くまで預かってもらえばいいとも思ったが、取りに戻ることにした。俺は来た道を引き返した。
店の前に着くと、入り口のドアにはCLOSEの板がかかっていた。もう一度携帯の時計を見ると、23時を少し回ったところだ。
おかしい、店じまいするにはまだ早い。
身を乗り出して店内を覗き込んだ。カウンターには誰もいないが、客がいたであろう痕跡は残っていて、空いたグラスや吸殻の入った灰皿がそのままにしてあった。その席はもちろん、あの男が座っていた席だ。男も帰ったのだろう。日曜で客の出入りも少ないし、早めに店を閉めたのかもしれない。
俺はドアに手をかけた。
CLOSEとなった店に入るのはなんだか忍びなくて、音を立てないよう静かにドアを開けた。
すいません、と声をかけようとしたその時、人の気配がしたので思わず口を閉ざした。
「っ...ん、...はぁ、」
...え?
気配に紛れて、明らかに喘ぎ声のような甘ったるい声が聞こえて、耳を疑った。
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