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次にもし店に顔を出すことがあれば、日曜日だけは避けようと決めていた。きっとあの男が当たり前のようにカウンターの端にいるはずだ。その光景を思うだけで胸糞が悪くなる。 俺は少なからず、失恋に似たショックを受けていたのだ。 その痛みに自覚症状はなかったが、時間が経てば経つほど、じわりじわりとにじり寄ってきて、心の中を蝕んでいった。 好きだと伝えることも叶わず、更に悪いことに好きになった人が恋人と愛し合っている姿を見せつけられ、何も出来ずにおいそれと帰ってきた。 惨めだった。情けなくて、一滴も涙は出なかった。 さっさと忘れて次の恋愛に切り替えた方がいいに決まっている。 だが、俺はどうしてももう一度あの店に行かなければならなかった。 腕時計だけは、手元に取り戻したかったのだ。 就職した際に、就職祝いだと父から譲り受けた大事な腕時計だったからだ。それを手放す訳にはいかなかった。そもそもそんな大事なものを忘れてしまったこと自体が悪いのだが、それだけ俺は、目の前にいた清春さんに心底陶酔していたのだと思う。 腕時計を手にしたら、すぐに帰ればいいんだ。 好きだったよ、なんて捨て台詞のように格好の一つでもつけて、終わらせればいいのだ。 そしてもう二度と、あの店には顔を出さない。 俺は土曜日の店の閉店間際を狙って、清春さんの店を訪れた。 俺はドアの取っ手に一度手をかけたが、思いとどまって手を離した。 OPENと書かれた板を黙って眺め、その表面を指先で撫でてみた。ツルツルとした滑らかな質感をしていた。裏をめくれば、当たり前のようにCLOSEと書かれている。 俺は、再びOPENと書かれた表面に戻そうとしたが、やめた。板をひっくり返してCLOSEにし、改めてドアの取っ手に手をかけ、ドアを押した。 片手で軽く押しただけで、簡単にドアは開いた。あの日のことは夢だったのではないかと思ってしまうくらい、軽かった。 足を踏み入れれば、軽快なジャズが歓迎してくれて、あの時の清春さんのやらしい声は聞こえては来なかった。 そして当然そこには、乱れた清春さんもいなかった。きちんと制服を着こなして、BAR-KIYO-のバーテンダーとして、「いらっしゃい」と俺を迎え入れた。

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