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7.
「司。今度は俺が聞いてもいい?」
黙っている俺を試すような目で見ていた清春さんが、そう切り出した。
「いいよ」
「司はさ、俺のことが好きだったでしょ?」
「そうだよ」
「どうしてしばらく会いに来なかったの?」
「失恋していたから」
「だったらこれ以上ここに居座る必要はないよね?それ、返したんだし」
さっき俺がしたように、俺の腕時計を乱暴に顎で差し示した。
清春さんはあえて俺の心をえぐるような言葉を選び、質問を投げかけてきた。それも、俺が言いたくないようなことを言わせるように仕向けられている。
清春さんはそうやって俺を突き放して、本当に、終わらせようとしているのだと思った。
「あるよ」
「へえ、どうして?」
「やっぱ諦めつかなくなったから」
「あんなセックス見ちゃったのに?」
「関係ないよ」
「未練がましくない?」
屈しない。
どんな酷いことを言われたとしても、俺はこの人を手に入れたい。
引くものか。
折れるものか。
絶たされてなるものか。
清春さんがその気なら、俺だって全力であんたを口説いてやる。
あの男から、あんたを奪ってやる。
「そうだよ?俺は諦めが悪いから」
「...時間の無駄だよ」
「無駄かどうかは口説かれてみてから判断してよ」
「...俺、今口説かれてるの?」
「そうだよ」
そう答えると、清春さんは声を出して笑った。こんなに笑う清春さんを見るのは初めてだ。腹を押さえながら肩を震わせる清春さんを俺は表情を変えず黙って見ていた。
清春さんはひとしきり笑うと、目尻に溜まった涙を拭った。
「...司はやっぱり、面白いね」
「冗談だと思ってる?」
「いいや、本気だろうね」
清春さんは、吹っ切れたように明るい表情をしていた。
手元に残っていたグラスを手にし、布巾で拭きながら、続けて話した。
「...でもね司、やっぱりダメだよ。司は俺のこと好きになっちゃいけない」
「なんで?」
「その目で見たんだから、わかるでしょ?」
わかんないよ、と目で訴えた。でも清春さんはこっちを見てくれなかった。
綺麗に拭きあげたグラスを、清春さんは丁寧にしまう。グラス一つにもぬかりなく、愛情が注がれているのがわかる。あの時の、欲望に塗れたいやらしい指先と同じものとは思えないくらい、愛に溢れていた。
「清春さん、もう俺に聞きたいことはない?」
「ないよ」
「じゃあ最後に一つだけ俺に質問してくれない?」
「いいよ。何を質問したらいい?」
「自分のこと好きか、って俺に聞いて」
清春さんは手元から顔を上げ、笑っているのか泣きそうなのかよくわからない表情を浮かべた。
「...卑怯だよ、司」
逃すものか、絶対に。
そんな想いを込めて、清春さんの目を見つめた。
清春さんは諦めたように大きく溜息をつき、小さく口を開いた。
「司は...俺のこと、好き?」
伏し目がちな清春さんを見つめながら、ありったけの想いを込めて、ずっと言いたかったその言葉を口にした。
「好きだよ。俺は、清春さんが、好き」
清春さんの瞳が揺らいだ。目のやり場に困ったように、さらに目を逸らした。
俺はスツールから少し腰を浮かして身を乗り出すと、清春さんのネクタイを掴んで身体を引き寄せた。
唇が触れる寸前になっても、清春さんの表情は変わらなかったし、抵抗されることもなかった。
清春さんの唇は、思った通り柔らかかった。
「...二番目でいいから。清春さんのこと好きでいさせて」
どんな男だろうが、清春さんにとってあの男は恋人で、一番好きだと思える人なのだ。
清春さんのその思いを踏みにじる権利は、俺にはない。
けれど、逆もまた然りだ。
清春さんにも、俺が清春さんを好きでいる思いを踏みにじる権利はないはずだ。
二番目でいい。
それは決して弱気になって言った台詞ではない。
俺がその一番の座を奪うまで、とりあえずは二番手でおさまっておいてやるという意味だ。
「...ほんと、困った子だね、司は」
「どうもありがとう」
俺が笑うと、清春さんも同じように笑って俺の目を見つめてきた。再び唇を近づけていくと、清春さんの目線が横に逸れた。それは店の入口に向けられていた。
「心配しなくても、もうCLOSEにしてあるよ」
清春さんは目を瞬かせた。
それから、ぷ、と吹き出すように笑って、「やっぱり困った子だ」と眉尻を下げた。
「ねえ、司。ここじゃ外から見えちゃう。そっちに行ってもいい...?」
清春さんの上目遣いと甘えた台詞に、わかりやすく俺の雄の部分が反応した。
「うん...来て」
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