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8.※

俺は清春さんの手を引いて、ソファまで導いた。 あえて、あの男が清春さんを抱いていたソファを選んだ。 あの忌々しい記憶を抱き続けたままでいたくなかった。 だから、俺が今日初めて清春さんに触れた、甘い記憶に塗り替えてやるのだ。 清春さんの肌は、一度触れたら離すのが惜しくなるほど滑らかだった。どこに触れても肌触りがよくて、俺は夢中になって手を這わせた。 あの時遠目からしか見ることのできなかった肌だったが、間近で見てもやはり白くて、綺麗だった。 あの男はこの珠肌を我が物顔で毎日のように愛撫できるのだと思うと、妬けた。 けれど俺だって、やっとこの身体に触れられた。この乱れた清春さんのシャツも、俺がこの手で乱した。 胸に込み上げてくるものがあって、俺はそれも一緒に引っ括めて清春さんの色白な肌を抱いた。 触れることなく終わるはずだった恋が、こうしてなんとか続いている。 終わらせてなるものかと意地で口説きはしたが、本当は怖くて怖くてたまらなかった。 今は清春さんが腕の中にいるこの現実が、有難い。 「清春さん...」 愛おしくなって耳元で名前を囁けば、擽ったいのか、気持ちいいのか、腰を捩らせながら吐息をこぼす清春さんの甘い息遣いを堪能する。 もっと聞いていたいが、そのやらしい息をもらす唇にも吸い付いてやりたいとも思う。 ちゅく、と優しく唇を吸うと、それを待っていたと言わんばかりに清春さんの方から深く口付けてきた。 清春さん、キス好きなのかな。 舌を絡み取れば、清春さんも俺の舌に吸い付いてきた。清春さんの肉厚で熱い舌に口の中をまさぐられると、気持ちよくて鼻から抜けるような息が零れた。 ...俺、今、清春さんとキスしてんのか。 夢みたいだ。 「はぁ...っ、つかさに、口説かれちゃったなぁ...」 「俺の勝ち...?」 「うん。...俺の負け」 「じゃあ、勝ったご褒美に俺のお願い聞いてよ」 「いいよ、言ってみて」 俺は清春さんをソファに優しく押し倒して、清春さんの頬を撫でた。 「清春さんがされて気持ちいいこと、俺に教えてよ」 予想に反して、清春さんは不服そうな表情を浮かべた。 「そのお願いは聞けない」 「なんで?」 「...面白くないから」 清春さんが呟いた。 ぽかんとしている俺に挑発的な笑みを浮かべると、ゆったりと両腕を伸ばして俺の首に巻き付けてきた。 たったそれだけの動作でありながら、身に纏う妖艶さに鳥肌が立つ。 そのままゆっくりと引き寄せられて、清春さんの唇が耳朶を掠めた。耳のすぐ側で、清春さんの呼吸を感じる。それがこそばゆくて、少しだけ身を捩らせた。 そして清春さんは俺の耳に唇を押し付けるようにして、甘く囁いた。 「それは、司が見つけるんだよ。...俺が、めちゃくちゃに...きもちよくなるとこ」 腰が、恥ずかしいほどに揺れた。 カウンターの向こうで、美味いカクテルを振る舞う清春さんしかほとんど知らなかった。 それがソファに押し倒せば、こんなにやらしく乱れて誘惑してくるのだ。 そんな淫らな清春さんも、好きだ。 けれど、これではさすがに俺の理性がもたない。 「っ...清春さん...ダメだよ。あんま...煽んないで。酷くしちゃうから」 「したらいいよ。もしかしたら、酷くされるのが好きかもしれないでしょ...?」 俺が口篭ると、清春さんは揶揄うように笑って俺の耳朶を噛んだ。鈍い痛みが走ったが、快感の方がそれを悠々と上回る。はぁ、と零れる吐息をそのままに、甘い感触を貪った。 「こんな風にさ...噛まれるのが...好きかもしれないし、」 今度は生暖かい舌先を耳周りに這わせてみせた。粘着質で卑猥な水音が、頭の中にまで鳴り響くようだ。 「それよりも...舐められる方が、好きかもしれない」 清春さんは、俺よりずっと歳上だ。人生経験にしろ、性体験にしろ、絶対的な経験値の差は免れない。 このままじゃ俺が食われる。 俺は清春さんに持っていかれないように、精一杯背伸びをする他なかった。 「司、」 甘い声で俺を呼ぶと、再び耳に唇を押し付けてきた。 追い打ちにも程がある。それでもこれから囁かれるであろう清春さんの声を、期待して待ってしまう。 「俺のこと、好きにしていいよ」 危険で、甘美で、魅惑的な響きに、自分の理性が犯されていくのを感じた。 「それが俺を口説いたご褒美。どう?」 「....うん、最高。...時計、忘れてってよかった」 それを聞いた清春さんは可笑しそうに笑うと、俺の髪を撫で付けてきた。 「よく、取りに来てくれたね」 「それ...卑怯だ」 「これでおあいこ」 うん、と小さく頷いて、俺は清春さんの甘い首筋 に吸い付いた。

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