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着信は一度だけではなかった。数時間後にもう一度かかってきたが、俺はその時も取ることが出来なかった。
メッセージでのやり取りは次の日から行なったが、習慣化していた通話は何かしらの理由をつけて断るようになったため、ここ数日は一度もしていない。電子機器を通しての会話だとしても平静を装える自信がなかった。
シャイボーイだと言われている俺も過去に彼女がいたことはあるし、晴輝と比較すると少ないとは言え恋愛経験だってそれなりにある。しかしどうも上手く立ち回れない。
想起されるのは初恋。当然だ。同性を好きになることなんて初めてで右も左も分からないのだから。
「駿佑、ちょっといい?」
柚葉に声を掛けられて事務所にいることを思い出す。大事な話がありますよと書かれている彼女の顔には、真剣な表情が貼り付けられていた。
晴輝の話だと直ぐに察する。柚葉が俺一人を呼び出すときは決まって彼の話をする時だからだ。
マネージャーとメンバーに飲み物を買ってくると伝えて二人で部屋を抜ける。柚葉に追随して天井から床まで清潔な白で揃えられた事務所の廊下を無言で進んだ。
誰も使わない階段下に辿り着くと彼女がこちらを振り返って言った。
「なんで晴輝くんのこと避けてるの?」
ゆっくりと自分のペースを保っていた鼓動が晴輝の名前を聞くだけで速度を速める。
やはり心臓に嘘をつくことは出来ないのだと再認識させられた。
「別に避けてなんて……」
「無責任なことしてんじゃないわよ!」
あまりにも突然のことで、何が起こったのか分からなかった。
気がついた時には視界の中心にいた柚葉が端に移動しており、廊下には破裂音のようなものが響いていた。
じわじわと頭角を現す頬の痛みと怒気を含んだ柚葉の声に、叩かれたのだと遅れて気が付く。どうやら彼女の豊かな感受性が限界値を超えてしまったようだ。
「何があったのか知らないけど、私も駿佑も片足突っ込んでるのよ。何も知りませんでしたじゃ済まないの……私達が支えてあげなきゃ、誰が晴輝くんを助けるのよ!」
柚葉の言葉一つ一つが脳内で反響する。
こんな状況に置かれながら俺よりもずっと細い脚で地面を踏みしめ、自分よりも大きい晴輝を支えて自立している柚葉が格好良く見えた。それに引き替え、俺はすぐ傍に立ちながら彼女を見ているだけ。
募る情けなさと羞恥心は俺の考えを改心させた。
「ありがとう、柚葉のおかげでケジメついたわ」
「ケジメ?」
「……俺……晴輝が好きや」
「突然何? 私も好きだけど」
「そうじゃなくて」
訝しげな目付きを向けた柚葉の反応は恐らく正しい。俺でさえこの事実をまだ受け止めきれていないのだから。
覚悟を決めて息を吸う。
今日この時この場で、情けない自分と決別するために。
「友達としての好きじゃなくて……晴輝に恋してんねん、俺」
その言葉を聞いた瞬間、メイクによってキラキラと輝く柚葉の瞼が驚愕により見開かれた。
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