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 フラフラとリビングに戻り、ソファに身体を預ける。罪悪感が胸中を支配している今、晴輝が寝ているベットに戻れるわけが無い。  俺が眠りについたのは、気休め程度のブランケットを掛けてから長い時間が経過してからだ。少なくとも寝転がってから三十分程は頭を悩ませていただろう。  深い眠りの中、遠くで自分を呼ぶ声が聞こえて枕を攲てた。  覚醒しきらずぼんやりとしている自分の胸に重い何かが乗っているような息苦しさを覚えて瞼を持ち上げる。  頭が回らず視界が白く霞んだが、有難いことに視力が良いため直ぐに黒い物体が胸の上にあることに気がついた。それが何かという疑問に答えが出たのは黒い物体が身じろいだからだ。 「…………はる、き?」 「ッ、しゅんすけ!」  名前を呼ぶと胸に乗っていたその黒が持ち上がった。  いつの間にかリビングまで移動して来たらしい晴輝は、ソファに寝転ぶ俺の胸元に頭だけ預けて床に座っていた。  眠気を覚ますために目を擦り、上体を起こす。 「こんなところでなにしとん」 「駿佑こそ、なんでソファで寝てんだよ」  お前と同じベットにいると変な気分になるから……。なんて言えるわけがない。  未だ睡魔が勝る頭を必死に起動させて最善の言い訳を模索する。 「……狭いと、晴輝が寝れないと思ってん」  我ながら辻褄が合う言い訳だと自分を褒めたい。これなら晴輝を傷つけず、俺も深手を負わない。  頭の回転が遅いとメンバーに揶揄われている俺だがこれなら及第点、いやそれ以上だろうと安堵したが、晴輝の拳が俺の脇腹に目掛けて飛んできた。 「――いっ、で……何すんねん!」  文句を言ってやろうと床に座る晴輝を覗き込むと顔を伏せられる。そのまま黙り込んでしまったことに不安を覚え、ソファを降りて隣に座った。  それでも尚沈黙を貫く晴輝が心配になり、どうした?と問いかける。  促されて顔を上げた晴輝の濡れた頬には、伸びた髪の毛が何本か絡みついていた。 「捨てられたかと思った」  確かに晴輝はそう言った。  カーテンの隙間から射し込んだ月明かりに照らされてキラキラと揺れるその瞳に目を奪われる。  もう泣かせたくないと願っていたのに、この涙を嬉しいと思ってしまうのは何故だろう。  醜い醜い、独占欲と優越感。 「起きたら俺がいなくて寂しかったん?」  我ながら意地悪な質問。答えは分かりきっていたが、晴輝の口から直接聞きたかった。  晴輝は流れる涙を拭うこともせずに声を振り絞る。 「寂しかった」  瞬きと共にまた一つ、煌めく涙が零れ落ちた。  映画のワンシーンを切り取ったような綺麗な泣き方をする晴輝を見て、俺の喉は息をすることすら忘れてしまう。 「俺は、どこにも行かんから」  そう言いながら抱きしめる。  優しく優しく抱きしめる。  どくんどくんと心地よいリズムを刻むこの音は、一体どちらのものだろう。  目が覚めて、俺がいないことに気がついて泣きながら探しに来たこの男が愛おしくて堪まらない。  弱すぎる。否、弱くなってしまったのだ。  やはり性別なんて関係なく今の晴輝は壊れ物なんだと数時間前に抱いた感情を肯定する。  この時間が永遠に続けばいいのに。なんて在り来りで甘過ぎることを本気で願った。 「駿佑狭いの嫌なの?」 「……嫌やないけど」  俺の肩に顔を埋めながら尋ねられた質問を否定する。先程の言葉は口から出任せに過ぎないのだから。  晴輝が腕の中からするりと抜け出し名残惜しいと宙に浮いた手は、身体を掴むことをせずに弧を描いて床に落ちた。 「じゃあ一緒に寝ていい?」  些かな葛藤の後、俺は声も出さずに頷いた。想い人からの可愛いお願いを断れる男なんているわけが無い。  以前、一人で寝るのが怖いと言っていたことを思い出す。それ故に一緒に寝ようと提案してきたのかと納得した。  随分と弱くなってしまった晴輝の頭を硝子細工を触るように撫でる。  眉を顰めて不満げな表情を作った晴輝は、子供扱いするなと言いながら頭に置かれた俺の手を弾いた。  どうやら歳上としての尊厳は忘れていないようだ。

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