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第11話
ボブが携帯を耳に当てながら話している横で螺旋階段を伝いながら降りて、一緒にビルを出た。外は日本より湿気がなく、爽やかな風が頬を撫でる。
ボストンは日本より湿気もなく、そんなに暑くなく比較的すごしやすい。ただ逆に冬がとても寒いと前に蒼から聞いたのを思い出した。冬はアイスホッケーの観戦やアイススケートなど一緒に楽しもうと約束している。
ふと、なにやら早口で電話の相手を優しく宥めるような声がし、振り返ると後ろでボブは真っ青な顔になりながら、困ったような顔で電話で話していた。
「ごめん、皐月、ランチは今度でいいかな………?」
話を終え、電話を切ったボブは申し訳なさそうに言うと、その後暫く押し黙った。
表情は冴えなく、意気消沈と携帯を持ったまま俯いてその場に佇んでいる。
本当はこの後、蒼とボブと自分でランチをする約束をしていた。平日なので、予約はしておらず、適当にイタリアンの店をいくつか考えていた。ボブの笑顔が消え、先ほどの元気な姿は微塵もなく、心配になって近くに駆け寄った。
「………ボブ、大丈夫?」
優しく声をかけると、はっとして顔を上げるが、その顔は今にも泣きそうだった。
透き通った碧い瞳は潤んで、背が高いのに小さな子供のように見える。
ボブは携帯をもう一度見て、ぼんやりと呟くように言った。
「…………どうしよう、ムーンが……。」
「ムーン?………ムーンがどうしたの?」
わなわなと言うボブの背中をさすりながら、心配そうに聞く。
「………連絡があって、具合が悪そうで……吐いて……。」
そう言ったきり、よほどショックなのか、ボブはまた俯いて押し黙った。
ずっとそこに立っているわけにもいかず、とりあえず走っているタクシーを捕まえて、身体の大きなボブを押し込んで一緒に乗り込んだ。
「ボブ、自宅はどこ?」
眉を顰めながらボブにそう言うと、運転手が行き先を訊こうと後方を伺い見て、ボブは驚きながらもしどろもどろに住所を答えた。車はすぐにその場を走り去り、昼間の混雑を避けながらタクシーはボブの自宅へ向かった。
自分は時計を見ると、待ち合わせ時間は過ぎており、蒼の顔を思い出してはっとした。
急いで蒼へ電話をするが、こういう時に限って電話は通じなく、すぐに切るとメールを打った。
『ごめん、少し急用ができたから、夕方また落ち合ってもいいかな?また連絡するから、ゆっくり身体を休めてて。 皐月』
簡単に文章を打って送信した。
蒼は家へ帰ればいつでもいるし、事情は会ってからでもゆっくり説明しようとその時思った。
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