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第13話

住宅街を抜けて、緑の多い公園の通りの傍を車は真っ直ぐに直進した。ハンドルを切りながらボブは前を向き、話を続けた。 「でも、君は全部を捨ててこっちにきたんだよね?」 ボブは前を見ながら、信号が青になると目の前のビルを曲がった。その様子をのんびりと眺めながら、緑の多い公園を抜けて街中に入る。 「………全部というか、まあ元々家族もいないからさ………。」 歯切れ悪く言うと、ボブは驚いた顔で振り返るが、ムーンは気づかず膝ですやすやと寝ていた。 「え!?」  突拍子もないボブの声が狭い車内に響く。丁度大きなトラックがすれ違いひやっと背筋が凍った。 「ボ、ボブ!ま、前を見なよ…。」 慌ててボブを嗜めて、ムーンを抱きながら身を乗り出してしまった。目の前は赤信号になりそうだった。 「……………サツキ、君の家族は?」 ボブは嗜められ、落ち着きを取り戻しながらも、会話を続けようとした。 「数年前に交通事故で亡くなったよ。今は乗り越えたし、心配はいらない。」 「………本当に?」 ボブは前を見ながら後ろの自分を心配そうに見た。 「うん、大丈夫。………その時、黒瀬がいたから………。」 不意にあの調子の良い黒瀬の顔を思い出した。散々浮気されたが、過去の記憶が辛辣すぎてまざまざと浮かび上がる。 「………彼は知ってるの?」  「え?」 「いや、今の彼は君が家族がいない事……。」 「…………知ってるよ。大丈夫。」 安心させる為に話したが、ボブは理解出来きないようだ。 「……それなのに、君はあの時一人でいたの?」 「え?」 独り言のように呟くボブに声をかけたが、車の振動で音がかき消された。 「……………別れた時に声をかければ良かったな。」 ふと、ボブは小声で呟くのが聞こえた。 顔は前を真っ直ぐ向いて、後ろからボブの表情はよく見えない。 「…ボブ?」 「いや、君がフリーの時に声をかければ良かったなと……後悔してる………。」 ボブは苦い顔をしていた。 「はは、ボブ、ダメだよ。そんな事したら、俺は単純だから、コロッといっちゃうよ。」 笑いながらムーンの柔らかい毛を撫でた。 ムーンはすやすやと車の振動でいつの間にか眠ったようで、これから病院に連れて行くのが可哀想に思う。 多分、あの時、蒼にも触れられず、会話も必要最低限の中で、ボブなような優しい人に話しかけられたら、自分はコロッと靡いていた。 「…………サツキ……ッ…。」 ボブが何かを言いかけた時、丁度目的地らしき病院が見えてボブは舌打ちをした。 「……ボブ、変な事言っちゃ駄目だよ。.…ほら、ムーンを起こさないと。」 気持ち良さそう眠っているムーンを優しく起こしながら、車は病院に到着した。

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