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第20話

「…………あ、そうだ!皐月、来週の連休、ロスに行かない?」 「ロス?」 横にいる蒼に凭れるように身体を預けながらも、怪訝な顔つきで隣の蒼の顔を見上げると嬉しそうにこちらに顔を向けた。 「パーティーがあって、弟が珍しくこっちに来るみたいで、ちょっと君に紹介したいんだ。僕の休みは取ってあるから、その後ゆっくりロスで過ごそうよ。」 「………パーティー?」 前に蒼に誘われて行ったが、社交辞令と挨拶で疲れ果て、さらに知り合いが誰もいず、居心地が悪くなりそれ以来出席はしていない。チャリティーや集いやら沢山ある中で、重要なものだけ蒼は出席しているようだった。 「小さな集まりだよ。………全然会ってないから会いたいんだ。……駄目かな?」 蒼は手を絡めて、じっと潤んだ瞳で見つめてくる。 微かにシャンプーの香りがし、端正整った顔を近づけてお願いされると弱い。 「弟は葉月さん?」 「いや、その下の双子の弟の方。………彼は優秀なんだけど…………結構な暴君でさ。うん、いや、やっぱり嫌ならやめていいよ。」 ふと、前に弘前を迎えに来た金髪の男が頭に浮かんだ。えらく美形で颯爽と赤い車で現れ、弘前を乗せて行き去っていった記憶が残っている。 暴君と蒼に言わせるなんて、余程の性格の持ち主なのだろう。弟である葉月は優しくしっかりしており、趣味で喫茶店のオーナーをしている。料理も上手く、話も面白い。 「……弘前が一緒に住んでる同居人だっけ?」 「そう、仲良く暮らしてるようだよ。葉月が前に電話で教えてくれた。………まぁ、喧嘩ばっかりとも聞くけどね。」 蒼は苦笑しながら、映画を眺めた。 相変わらず兄弟関係は良好らしい。 蒼は五人兄弟だ。蒼、葉月、その下に双子と末っ子。と兄弟は多い。 下の双子と末っ子は母親は同じだが、蒼と葉月だけそれぞれ母親が違う。 だが、腹違いだとしても兄弟仲は良いらしく、蒼は良く楽しそうに弟達の事を話す。 楽しそうに家族の事を話す蒼を愛おしく思う。蒼と自分は偶然なのか、お互い両親はすでに亡くなっていた。蒼が腹違いだとしても、家族である弟達の事を話す度に気持ちが和み、羨ましい思った。 「…そっか。………うん、行くよ。ロスも初めてだから楽しみにしてる。」 「ありがとう。皐月、嬉しいよ。」 蒼はほっと安心するように胸を撫で下ろした。 まだ葉月しか会った事がないので、改めて紹介されるのは初めてで、蒼からのお願いも無下にはできない。 「……ちょっとトイレ。」 「皐月、大丈夫?」 よろよろと立ち上がると、蒼が心配そうな声で顔を上げる。 一旦トイレで用を足す。弘前から餞別として押しつけられた、下着を上げ直した。それは尻の部分の生地面積が少ない、ジョックストラップだった。 『蒼、びっくりするから、向こうで着てみなって!』 と、ケタケタと笑う友人の弘前に押しつけられ、渋々貰いながら引き出しに隠していた。弘前は同じ小説家同士気が合うが、性格は明るく調子が良く、ふざけた事ばかり言う。 蒼はちゃんとお互いを考えているのに、自分は安直な考えでこんな変な下着を着ている事を隠れて反省し、本当に何をしてるんだろうと恥ずかしくなった。 てっきり滅茶苦茶に抱かれるのかと思ってしまった……。 手を洗いながら、風呂で準備した事を思い出して真っ赤になった自分が鏡に映った。 そしてふらふらしながら蒼の隣に戻ると、映画はまだ中盤にさしかかっていた。ソファに腰を下ろしらとくとくとワインをグラスに注いで、飲む。 「皐月、飲み過ぎだよ。」 蒼は心配になり、ペットボトルをグラスの横に置いた。ふわふわとした感覚に包まれながらも、ペットボトルのキャップを開け、目の前の犯人らしき俳優に視線を移す。 そこから記憶がうろ覚えで、自分は蒼の隣で眠っていたのかと思った。

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