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第28話

戻ってすぐに部屋の扉を開けると、部屋の中央に広がる大きなベッドに押し倒された。手を繋ぎ広いベッドに縫い留められると激しくキスをされる。眠気が吹っ飛び、驚いて瞼をゆっくり開くと蒼が薄緑色の瞳に怒りを滲ませていた。 「………あおっ……んっ…………。」 勢いよく舌を吸われ、息すらまともに出来ず、繋がれた手を押し戻そうと抵抗するが身体はビクとも動かない。 バローロよりはそんなにひどく酔ってはないので、眠気が醒めると幾分か意識がはっきりしてきた。 「…………ボブと見せつけられてるみたいだった。嫉妬したよ、皐月はたまにあざといよね。」 蒼はネクタイを緩め、自分の首筋に顔を埋めると軽く噛む。甘い痺れが走り、何度も甘く吸うようにキスをされ、ワイシャツのボタンを手際よく外される。 「………んっ………蒼、ごめん。」 潤んだ瞳で蒼を見上げる、このまま滅茶苦茶に抱かれそうで胸がドキドキと鼓動が全身に響く。昨夜からの甘い雰囲気から、旅行の準備やらでまだ身体を重ねていない。せめて誤解があるならば解きたい。 「もう僕以外の前で赤ワインを飲まないで欲しいな、絶対に。………本当にぎょっとしたよ。」 ワイシャツのボタンを外されて、下着を巻くられると肌が露わになると優しく撫でられる。大きな掌で撫でられると、甘い感覚が肌を通して電流のように流れる。 「………ッ……………蒼は嫉妬過ぎだよ。」 酔ってボブに少し寄りかかったつもりだった。 蒼の大袈裟な言い方に、つい本音が漏れる。 すると蒼は上からキッと睨み付けるように見下ろしてきた。 「………皐月、気付いてないだろうけど、君達同じストラップつけてたよ。僕は指輪があるから許せたけど無かったら、立ち直れないよ……。皐月、君は無自覚過ぎる………。」 ストラップ……? ふと、自分の鍵につけていた犬のチャームを思い出した。確かにボブも先ほど遠くで電話していたが、携帯に何かつけていたのような気もする。でもまさか同じものとは思わず、本人達すら気付いてないのに何故蒼はこうも目敏く見つけてしまうのか……。 「…………そんな、わざとじゃないよ。たまたまだよ。」 本当に知らなかった。 訂正するように蒼と繋いだ腕に顔を寄せ、手首にキスをして嗜める。 「本当に?」 蒼は憐憫に満ちた瞳で見下ろして見つめる。 どうしてそう、たかがストラップでそんな顔をするのがよく分からなかった。 「本当だよ、ボブと一緒に買ってない。」 ボブに渡そうとはしていたが、ペアで買ったわけではない。 だがそれすら言うとまた言い返そうだ。 「そうなの?」 「そうだよ……。」 執拗に確認を求めてくる蒼はまるでムーンのように耳と尻尾が垂れて見える。 「……………はは、蒼は昔からそんなヤキモチ焼き?」 つい、本音が漏れた。 「ヤキモチ?」 蒼はヤキモチという言葉にピンとこないらしい。 「そう、嫉妬深かったの?」 自分で言って、笑いそうになった。 上からのしかかるように乗られて首筋を何度もキスする蒼をみると、どんどんと笑いがこみ上げてしまう。大きな身体に押さえ付けながら、必死に嫉妬している蒼が可愛くてしょうがないのだ。紅葉の昔は冷たかったという言葉を思い出すが、嘘のように聞こえる。 「………………昔はもっと淡白だったよ。でも……。」 蒼は何か思い出したのか、急にピタリと動きを急に止めた。 「蒼?」 一瞬曇った蒼の顔色に反応するが、蒼はにこっと笑って自分をまた熱い視線で見つめ直した。 「………………今は皐月だけだよ。」 甘い吐息が鼻先を擽り、繋いだ手を離し両手で顔を掬い上げると唇をゆっくりと重ねた。まるで何かに誓うように見え、そして何かを隠すようにも感じた。しかしながら、酔った自分は呑気にうっとりと重なり合う唇の余韻に酔いしれ、蒼の身体に手を回してしがみついた。 「うん、俺も………。」 やっと黒瀬との過去から想いを断ち切り、蒼を好きになれた。やっとだ。8年付き合い、ボロボロになりながらも終わった恋から目醒められた。 「皐月、一緒にシャワー浴びない?君が一人で準備してるの見たいな………。」 唇が離れると、蒼は意地悪そうな顔ではだけた胸にキスを落とした。

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