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第33話

その後、蒼とクラフトビールが美味しいと評判の店に移動し、当たり障りのない話をしながら、ピザやナッツを摘んで夕方までぶらぶらと市内を観光した。 時折、蒼はぼんやりしながらキョロキョロと誰かを探しているようなきがした。 そしてすっかり日が暮れ、ビアバーに立ち寄って軽く軽食を取りながら二人でビールをまた飲んでいる。ベルギースタイルのビールはのど越しよく、とても飲みやすい。自分はほろ酔いで3杯ほど飲んでいた。対して、蒼はちびちびと珍しくまだ1杯を半分残している。 「蒼、ユーリさんが気になる?」 「…………え?」 蒼は空返事で答え、はっとして顔を上げた。 ユーリと会ってからずっとぼうと何かを考えているような感じだ。 「はは、いいんだよ。仲良かったんだね、蒼すごい顔してた。」 そう言いながら、ポテトを口の中に放り込んだ。 目の前には揚げ物にチーズとジャンクフードばかり注文してしまい、自分だけ食べている。 普段の蒼ならあっという間に食べるのに、今日は心なしか元気がない。 蒼は複雑そうな顔をして、眉を寄せるとゆっくりビールのグラスを傾けて飲み込む。 まさか蒼が自分を通り過ぎて、すれ違うようにユーリに駆け寄って行くなんて予想外だった。 蒼の恋人は亡くなっているし、本当に仲が良かったのだろう。 「……………久しぶりに会ったから、びっくりしたんだ。」 「そっか。会えて良かったね。まるで運命の再会みたいだったよ。」 ひしっと抱き合う二人を思い出して、苦笑すると蒼は傷ついたような顔をした。 どっちが恋人なのか分からないほど、ユーリを抱き締める蒼の顔は高揚していた気がする。 「………そんな事ないよ。僕と皐月の方が運命的じゃないか。」 「そうかな?」 「うん、そんな気がする。」 蒼は琥珀色のビールを見つめながら、寂しそうに微笑んだ。 グラスの中は泡が揮発してもう液体に近づいている。 「でも、何回も別れてるから、神様にここで別れた方がいいって言われてる気がたまにするよ。」 冗談ぽく言って笑った。 蒼とは散々揉めて離れてを繰り返したような気がする。 桐生の事もあったし、黒瀬との長い付き合いからようやく乗り越え、蒼とやっと結ばれた。 自分の蒼の過去と向き合いながら、蒼を大事にしたいと思っている。 「…………そうなの?」 「ごめん、冗談だよ。……………ずっと一緒にいるって誓ったんだ、それこそ運命的だよね。」 「………うん。」 微笑みながらビールを飲み干す。 蒼は歯切れ悪く苦しそうな顔をするが、ほろ酔いでほとんど蒼の気持ちを読み取れていない自分がいた。 「あ、そうだ。ボブに話して、ユーリさんの連絡聞いておくよ。ランチに誘ったんだけど、体調が良くないみたいでね、彼すぐ帰ったんだ。蒼によろしくって言ってたよ。…………引き留めたんだけど、連絡先交換出来なかったしね。」 終始、上の空の蒼を見ると、蒼はどこか名残惜しそうで、もっとユーリと話したそうなような気がした。ランチを誘ったが、ユーリは顔色は悪く体調が悪そうだった。それに急に背後からボブに声をかけて邪魔してしまった事をどこか後ろめたく思ってしまう。 携帯を取り出して、忘れないうちにボブにユーリの連絡を教えてほしいとメールを打った。 その様子を蒼が心配そうに眺めている。 自分はボブにヤキモチを焼いているのかと思って、その表情が何故か可愛く見えた。 「……皐月…あのさ…。」 蒼は何か言いたげだった。 メールを送信し、携帯を閉じて蒼を見上げる。 「大丈夫だよ、ボブとは暫く連絡を控えるから。連絡先が来たら、転送する。………蒼、そろそろホテルに戻ろっか。」 満面の笑みで微笑むと蒼は何も言わなくなった。 蒼のグラスを見ると全然減っておらず、早めに横になって休んだ方がいいと思った。 今日は朝から一日外に出て、観光もしたので、全身から疲労感を感じる。 明日はチェックアウトしたら空港に行き、ボストンへ帰るのだ。 帰宅したら溜まっていた自分の仕事の締切に取り掛からなければならなく、蒼も次の日から朝早く出勤しその後は多忙だと聞いている。

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