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第36話
黒瀬と新緑に満ちた公園を出て、本屋まで途中一緒に歩いた。
平日の昼間のせいか、ビジネスマンが多く行き交う。学生も多いが、ボストンはスーツ率が高い。
信号機にさしかかり黒瀬より少し前に出て待つと、蒼らしき人物が見えた。そしてすぐに目の前が真っ暗になった。
何が起こったのか分からず、一瞬パニックになりそうだったが、それが黒瀬の手だと直ぐに分かると怒ったような声が自然とでる。
「…………………く~ろ~せ~!」
黒瀬が自分の目を覆って、目隠しのように隠している。子供じみた事をしてすぐにちょっかいを出す黒瀬に舌打ちした。
「ごめんごめん、眩しいかと思ってさ。」
悪びれる事のない黒瀬の声が後ろからした。
その声は軽快で、調子が良く普段と変わらない声だった。暫く目隠しされ、顔を振って黒瀬の手をよけると蒼に似た人物はいなくなっていた。心なしか蒼似た人の隣に誰かいたように見える。だが蒼は今日も仕事だと言って、朝早く出て行った筈だ。
「そんなに眩しくないよ。」
確かに陽は射しているが、真夏ほどギラギしていない。今日も程よい晴天で、気持ちの良い天気だ。
「あ、そうだ!皐月、来週一週間空いてる?」
黒瀬は急に話題をかえて、思い出したように訊いてくる。締切も無事終わり、蒼も休みを言ってこないとので暇といえば暇だった。
信号機が変わり、黒瀬と並んで歩く。行き交う人が楽しそうに話し笑ってすれ違っていく。
「………空いてるけど、変な事なら参加しない。」
「変な事なんてしないよ。僕が出張で一週間いないんだ。それでちょうど悠を連れて行こうと思ったんだけど、行きたくないって駄々こねられちゃってさ………。秘書も連れて行くから、君が一週間、悠と過ごしてくれると助かるんだけど、留守番頼めないかな?…………無理を承知なんだけどお願いできる?ね?」
信号機を渡り切ると道路の隅に寄り、黒瀬は申し訳なさそうな顔で手を合わせて、上目遣いで見上げてきた。
その顔は昔散々騙されてきた顔だ。
そして可愛い悠の為なら、絶対に断らないのを知っていてこの仕草だ。
あざとい黒瀬に嫌々ながら、小さく頷く。
「………いいよ。バイト代弾むなら……。」
「勿論だよ!皐月、ありがとう。」
ぎゅっと黒瀬は自分を引き寄せて抱き締める。
溜息をつきながら、身体を押し戻した。
「…………誤解されたくないから、やめてくれ。…………たく、調子が良すぎる。悠の為だからな。」
悪態をつきながら苦笑すると、黒瀬もまた笑った。蒼の事で悩んでいた事が嘘のように忘れてしまいそうだった。
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