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第49話
ユーリの手術が無事に終わった。
重い足取りで蒼は帰宅し、ソファに沈んでいる。
テレビをつけてリモコンを操作するが、どの番組もどっと疲れが増すだけだった。
すぐに電源を消して、静かな室内で一人考えた。
明日皐月は帰ってくると信じたい。
だが、皐月へ電話しても、メールしてもなしのつぶてだった。
一週間がこんなに長いものかと、毎晩遅くに帰宅し誰もいない家の扉を憂鬱な気分で開く。
いつもなら、皐月が優しく微笑みながら迎えてくれるのに、今はその姿がない。
どんなに忙しくても皐月の笑顔で疲れが吹き飛んだ。
優しくて一途に自分を想ってくれる皐月が傍にいない。
やっと黒瀬の影から解かれ、前向きになり、お互い上手くいっていた筈だった。それを自分のせいで壊してしまったのだ。
どうしてあの時皐月を揺り動かしてでも相談しなかったのだろうと何度も思った。
このまま皐月が自分から離れてしまうのかと思うと、胸が苦しくなる。
それに黒瀬の家にいるとしても、他の男の、しかも元恋人だった男の家のベッドで寝ているなど想像もしたくなかった。
だがユーリがつけた痕を散々みせつけて、自分から指輪を外した癖に皐月に行くなとも言えない。
皐月に話してから、手術前にユーリと病院で話した。
入院着を着たユーリはすっかり病人に見え、前回会った時の強気さは消えていた。
しかし顔色が悪そうだったが、何故か以前の投げやりな態度は消え生気が漲って見える。
蒼が姿を見せると、すでに何を話そうとしていたか分かっていたようだ。
蒼はユーリに渡された指輪を返して、もう皐月を傷つけたくないとはっきりと伝えた。そして曖昧な態度でユーリの思惑に乗ってしまった事を謝る。
皐月に話した旨も添えて言うと、ユーリは泣きそうな顔をした。
『皐月に謝りたい。傷つけてごめんと言わなければね………。蒼にも酷い事をしたね、ごめん。』
大きなブルーの瞳は潤んで溢れそうだった。
傍で心配そうにボブがその様子を眺めて、ユーリの手を握っていた。
二人の左手には石のないシンプルな指輪がついていた。
想いが通じ合ったのか、以前よりお互い仲睦まじく寄り添っているように見える。
ユーリは今ボブの傍で眠っている。
もう少ししたら目を醒まして、元気に笑うだろう。
蒼はぼんやりと思い出しながら、携帯を手に取る。
時計を眺めた。
20時だ。
皐月はまだ起きているだろうか。
本当は黒瀬の家に向かいたいが、小さな悠もいるしそれは避けたい。
蒼は思い切って、祈るように番号を押した。
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