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第51話
「皐月!久しぶり!」
「お父さん、やめて!サツキに触らないで!」
「黒瀬、慣れ慣れしく嗅ぐな。」
黒瀬が帰宅すると一気に静かだったリビングが喧しくなった。悠と一緒にテレビを見ていたのに、突然リビングにこっそりやってきた黒瀬に抱き締められ、匂いを嗅がれる。
悠は自分と黒瀬の間に入り、黒瀬を自分から懸命に離そうとして可愛い。三人でぎゅうぎゅうと意味の分からない騒ぎを繰り広げている。
「で、君達は仲直りできたの?」
黒瀬は悠に睨まれたのが効いたのか、惜しみながらも手を離して呆れた顔で訊いてきた。
「お陰様で仲直り出来たよ。……俺はリスに似てたんだとさ。」
「リス?」
黒瀬はなんの事を言ってるのか、眉を顰めて難しい顔をした。
「そ、リス。俺を好きになったのはユーリに似てるんじゃなくて、リスなんだって。」
最後の語尾が笑いそうになると、黒瀬は爆笑した。
「あはは!君がリスに?……皐月、それはそうだね、君、リスに似てるよ!はは!悠、皐月はリスに似てる?」
お腹を押さえながら、悠の肩をぽんぽんと叩く。悠はきょとんと瞳を大きくしてこちらを見ている。
「……黒瀬、笑い過ぎだ。俺はそろそろ帰るよ。悠、おいで………。」
爆笑してる黒瀬を尻目にしゃがんで悠を抱き締めた。悠とはすぐに会える距離にいるが、1週間も一緒に傍にいると離れるのが惜しくなる。柔らかな髪の毛を撫でながら、数日間の思い出を振り返る。また会う度に成長を感じるのだろうか。
「悠、1週間ありがとう。君はかっこいい大人になるよ。今度はうちに遊びにおいで。」
優しく微笑んで言うと、悠の抱き締めた力がぎゅうと強く感じた。
「………うん、サツキもまた遊ぼう。」
悠は泣くのを堪えながら、頬にキスをしてくる。黒瀬にもこの純粋無垢な部分を見習って貰いたい。
悠を名残惜しく離して、立ち上がる。大きなトランクを持って出ようとすると、インターホンのブザーの音が聞こえた。
「僕が出るよ。」
黒瀬がそう言って玄関に向かう。入れ替わりで客人でも呼んでいたのだろうか。
何やら話し声が聞こえ、廊下から顔を出して少し覗くと客人は蒼だった。休みを取ったのか、ジャケットに黒のTシャツとラフな格好だった。
「蒼?」
「……………皐月。」
蒼は自分の顔を見つけると、ぱっと顔を輝かせたが、すぐにしゅんと見えない尻尾を垂れ下げて悲しげな顔になった。
「君の番犬がお迎えに来たよ。皐月、あまり苛めないようにね。」
黒瀬が振り返ってにやにやしながら言う。
まさか蒼が迎えにくるとは思ってもいなく、驚きながら荷物を持って玄関にいる蒼に向かった。
「……皐月、傷つけてごめん。君が帰ってくるか不安で迎えに来たんだ。」
黒瀬の前なのに、ぎゅーーーと急に抱き締める蒼に驚く。
「ほら、皐月。苛め過ぎるから、泣きそうじゃないか。早く家に帰ったら?」
黒瀬は隣で呆れながら言った。
「う、うるさい。ほら、蒼、もう行こ?家に帰ってからちゃんと話しよ?」
蒼の背中を優しく撫でながら宥めた。蒼は頷きながら静かに身体を離す。悠もこっそり見ていそうで、片手に荷物を転がし、もう一方は蒼の手首を掴んで慌ただしく黒瀬に礼を言って家を出た。
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