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第54話

蒼は嫉妬で服を着たままシャワーを浴びせてしまったことを反省し、横で寝ている皐月をじっと眺めた。何度も皐月を求め、互いに啄むキスをしながら皐月を抱き続けてしまった。 敏感に躰を震わせて反応してくれる皐月が愛しくて、昨日眠れずにいたのが嘘のように感じる。 全部許して貰ったわけでもないが、また皐月の傍にいれる事が嬉しいのと申し訳なさで一杯になる。1週間連絡が来ない時は、もう皐月は自分の元に戻ってこないのではないかと不安だった。そして自分は黒瀬の香りがするだけで嫉妬したのに、皐月はそれを何も言わずに我慢していた。その姿を思い返すだけで、痛々しく、皐月を大事にしなければと誓う。 ひたむきで一途に愛してくれる皐月を失ったら、多分自分はもう二度と人を愛せない。ユーリも愛していたが、初めて自分を心の底から愛してくれる皐月が愛しくてしょうがない。失敗をしまいと思う度に皐月を傷つけてしまう。 それを今日皐月に告げると、 『蒼は沢山失敗した方がいいよ。そういう姿も好きなんだ。』 そう皐月は優しく微笑んで言った。 あれから昼間まで求め続けて、のんびりとベッドで過ごし、夕方一緒にご飯を作った。皐月は胃を摩りながら、食欲が無いんだとちょっと困った顔で笑い少し食べて残していた。その後はお風呂に一緒に入り、のんびりお酒でも飲もうか?と誘うと断られ、皐月は寝室に入り早々と寝た。確かに夕食から皐月は顔色が良く無さそうに感じる。 寝る前に心配になって明日病院に受診するように言うが、 『最近色々あったし、仕事も大変だったんだ。疲れてるだけだよ。』 と笑っていた。疲れさせている元凶が分かるので、心配になりながらも明日また病院に行くよう勧めようと思い、その場をやり過ごした。過保護なのは分かるが、皐月がこれ以上怪我をしたり、病気になるのがとても心配だった。ましてや自分のせいで、散々皐月を傷つけた。 そっと髪を撫でながら、眠っている皐月を眺める。明日からまた出勤だが、これからはもっと皐月を大切にしなければと反省する。 頬にキスしようと顔を近づけると皐月は少し眉間に皺を寄せ、辛そうな顔をしていた。 「……ん…んっ……。」 しだいにうなされているような小さな呻き声がでる。疲れてる身体をもじもじと動かし、ごそごそと皐月は自分のみぞおちへ手を当てていた。 「……………皐月、大丈夫?」 心配になり、声をかけるが皐月は起きない。 瞼を閉じたまま身体を丸め小さく横に曲げている。水を持ってこようと傍を離れ、キッチンに行き、冷蔵庫からペットボトルを取り出す。 夢にうなされているのだろうかと思いながら、寝室へ戻る。 すると寝室からまた唸り声が聞こえ、急いで部屋に戻った。遠目で真っ白なシーツに黒褐色の染みを確認する。皐月は横に寝たまま、吐血していた。顔を顰め、ゼイゼイと浅い息を吐いている。顎からは血が滴り落ち、目は開いているが虚ろだった。ペットボトルを落とし、急いで駆け寄った。 「皐月!大丈夫!?」 「………蒼、ごめん。…………シーツ、汚した。」 瞳を潤ませて、微かに笑って起き上がろうとする皐月を止め横に寝かせた。皐月は胃の部分を抑え、また痛みが走ったのか、顔を顰めながら呻き声を出し、また吐血を繰り返す。黒褐色の染みがシーツにどんどんと大きく広がり、皐月の顔は青ざめていく。さっきまで元気だったはずなのに、皐月はぐったりとして胃を抑えている。心拍を確認するが、段々と弱くなっている。 「すぐに救急車を呼ぶよ。皐月、痛いのは胃の部分?」 そう言うと皐月は微かに頷き、また血を吐く。 早くしないと出血性ショックを起こしてしまう。吐いてからまだ時間は経っていないはずだが、一刻を争う。 冷静になりながら911に電話し、状況を伝える。時間を確認するとすでに23時で病院も絞られる。救急車が到着する前に、自分の病院へ電話した。 「ハイ、患者一人、緊急オペになりそうなんだけど手術室空いてる?確認したら教えてくれないか。たぶん、胃潰瘍で吐血してる。吐血が止まりそうにないんだ。輸血も用意してくれると助かるよ。」 すぐに電話が来て、オペの準備をお願いした。 皐月は顔色がさっきより青ざめ、唇が紫に近い。皐月を横にさせ、口の中に凝固物がないか確認する。そして止まらなく吐血にタオルと洗面器を用意した。皐月に毛布をかけながら体温を温存させる。皐月は洗面器にまた血を吐いて出す。 すると救急車も到着し、急いで自分の病院を救急隊に告げ、ぐったりとする皐月とともに病院に向かった。

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