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第55話

けたたましいサイレンが聞こえないほど、珍しく動揺している自分がいた。 救急隊の隣で、祈る気持ちで皐月をみつめるしかできない自分が歯がゆい。 救急車の中で、応急処置がさらに行われ、皐月の吐血は止まったようにみえた。 だが大量の吐血をその前にしているので、油断はできない。 顔は青ざめ、唇はチアノーゼを起こしている。 救急車では車内が狭く、手術の清潔野が確保できない。 病院に到着後、すぐに開腹し、エタノール局注で出血を止め、出血箇所を縫合しなければならない。。最悪、静脈瘤破裂なども想像したがそれは避けたかった。 様々な病状が頭の中を巡り、最悪の事態だけは避けたい。 冷静を保たなければと皐月の手を強く握り締める。 「皐月、大丈夫。…………すぐに病院に着くよ。」 励ますように声をかけるが、皐月の意識は既に朦朧になってように見えた。 虚ろな瞳が一瞬こちらに向けられ、微かに唇が動く。 『…………あ…お…。』 まるで最後のような言葉に、眉を顰めながら手を絡め強く握る。 全部、自分のせいだ。 こんな状態になるまで、皐月を追い詰めてしまった。 皐月を失うと想像するだけで、背筋が凍る。 揺れる救急車の中で、蒼は祈るように皐月の手を強くまた握った。

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