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第58話
「ユーリ、ちょっといいかな?」
ユーリの病室に顔を覗かせると、ユーリは辛そうな身体を起こした。顔色は以前より回復し、ほんのり頬が赤味を色づいている。自分の病室にきた時は車椅子だったので、心配をしていた。ユーリの部屋も広く、病室とは思えないほど豪華に感じた。
「………うん」
長い睫毛を伏せ、小さく頷いた。
ユーリが自分と同い年と聞いて、親近感を持ってお互い敬語抜きにしようとお願いしていたがまだぎこちなさが抜けない。
「明日退院だから、少し話をしたくてさ。もしかして、忙しい?」
ユーリは静かに首を横に振った。
病室を見渡すとボブの姿はなく、病室には誰もいない。そっと傍に近寄り、ユーリの傍にある椅子に腰を下ろした。机にはボブの本が数冊置いてあるのが見える。
「その、あまり気にしないで欲しいんだ……。本当に胃潰瘍の原因は飲み過ぎもあるし、肝臓の数値が上がってるて蒼に指摘されちゃってさ……。」
気まずそうにユーリな顔を見つめると、ユーリの大きな瞳は潤んで、焦ってしまう。
ボブもユーリもすごく心配するが、本来黒瀬のコレクションを見つけなければこんな事にならなかったような気がする。勿論、蒼との事もあるが黒瀬の8年に比べれば、自分の胃はよく持ち堪えたと思うほど頑張っていたはずだ。
「…………皐月は体調はもう大丈夫?」
「うん、明日退院だよ。まだ食事療法は続くけどもう大丈夫。ユーリは?」
「僕も数日したら、退院かな。皐月、本当にごめんなさい。皐月には酷い事した。逆恨みだよね。」
ユーリは頭を下げて謝った。入院着を着て、か細い華奢な身体で謝られると罪悪感が増した。
「ユーリ、顔を上げて。本当、もう気にしなくていいから………。」
焦って、ユーリの背中を摩る。
確かに色々あったが、過ぎた事だ。
流された蒼も悪いし、直接問い詰めなかった自分も悪い。
「だって君はこんな僕を助けてくれた……。」
「いやいやいや、そんないい奴じゃないよ。ただ昔、喧嘩していた両親を亡くしたんだ。その時は辛かったし、後悔ばかりだったから、それだったら、生きてて欲しいて思ったんだよ。俺なんかより、黒瀬の優秀な秘書さんが一番の功労者だよ。」
「………そんな。」
補足するようにユーリに説明するが、ますます悲しげな表情になり、長い睫毛が揺れる。
「あ、いや。そっちもボブと仲良くやりなよ?君に死なれたら、それこそ全部蒼もボブも持ってかれちゃうよ。」
死人に口無しだ。
いくら悔やんでも、無常な事は身をもって知っている。
「でも僕は許されない。」
「俺と蒼が許すよ。」
微笑んで、ユーリの華奢な手を握る。
とにかく無事にお互いここにいる事に感謝し、明るく生きたい。
「皐月、ありがとう。」
ユーリの目尻に涙を溜まっているのが分かる。
それを拭いながら微笑んだ。
「うん、それで、お願いがあるんだけど、…………黒瀬のお酒を飲み過ぎた事、蒼には黙ってて欲しいんだ。」
本題はそれだった。
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