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番外編『皐月、セックスレスで悩む』2

「蒼は皐月の身体を心配してるんでしょ?」 ユーリは憂を帯びた表情で言った。 「それは、そうなんだけどさ………。」 それは身に染みるぐらいよく分かっている。 確かに蒼は自分の身体を心配し過ぎるくらい、尽くしてくれていた。 それを黒瀬が茶化して、『皐月、ウォッカとウィスキーの件バレたの?』と蒼の前で言うのだから、蒼は『皐月、どういう事かな?』と穏やかな微笑みで聞いて、事の顛末を説明すると、さらに蒼の監視の目が厳しくなった。アルコール、カフェインは解禁されたが容量が厳しく決められてしまい、最近ハイネケンを買ったら、1日1本という厳しいルールを提示された。勿論、大好きな珈琲もがぶ飲みをしないように言われている。 『皐月、好きな物を我慢させてごめんね。でも、徐々に数値を戻して、一緒に頑張ろう。』 蒼は優しく言うが、もしそれで肝臓の数値が下がらないなら、蒼は専属の栄養士とトレーナーをつけようとしてるのを知ってる。流石にそこまでされたくないので、今は従順に蒼の指示に従っているのだ。 「……あのさ、…その、皐月は蒼とどのくらいしてたの?」 ユーリはまた顔を赤くしながら、大きな瞳を瞬かせ、気まずそうに聞く。真昼間から聞ける内容ではないが、お互い興味津々で小声になっていく。 「……ふ、普通だよ。そんな多くないかな…。」 嘘だ。 蒼とは、ほぼ毎日求められ、気を失うまでしていた。さらに吐血する直前まで何回も躰を重ねている。だが、そんな内容を術後のユーリに言えるわけない。 「そ、そっか。……流石に毎日とかないよね……。」 オレンジジュースの酸味が喉に絡まりそうになった。すでに氷は溶けて味が薄くなっている。 色が黄色くなりそうなジュースを尻目に溜息をついた。 「毎日………。」 穏やかな微笑みが絶えないボブを思い浮かべ、毎日求められているユーリが羨ましくなってしまった。 蒼とは確かに付き合って長くなるが、半年のセックスレスは初めてだ。かと言って、主治医本人に夜の営みをいつから開始すべきか聞き辛い。いや、もう解禁してもいいと自分は思っている。流石に結婚してからも一回もないとなると、健康になった身体には少々気の毒だ。 「あ、いや、でも、皐月からも誘ってみたら?蒼も喜ぶと思うよ。」 困った顔でユーリはさりげなくフォローを入れた。自分からも何度かトライしたが、やんわりと蒼に断られている。 「善処してみるよ………。」 深い溜息を吐きつつ、氷が溶け切ったぬるいオレンジジュースをまた飲む。すると背後から嫌な気配を感じた。 「え、なになに?皐月、レスなの?」 真ん中にあるクッキーに見慣れたスーツの袖が伸びる。 「げ、黒瀬。」 「あ、黒瀬さん………。」 ユーリと二人でじっとそのスーツの主を見つめる。黒瀬は悪気もなくクッキーをバリバリとと煎餅のよう食べるとまた、手を伸ばした。 「とうとう倦怠期?新婚だけど、君達は付き合いが長いからね。結婚して安心すると平穏で退屈は生活に飽きるていうしね。皐月、カウンセラーにでも予約する?」 「……………黒瀬、煩い。蒼は身体を心配してくれてるんだよ。余計なお節介だ。」 半端切れそうになりながら、クッキーを頬張る黒瀬を睨みつけた。 「そう?君達別れてばっかりだから、やっと蒼さんも皐月に嫌気が差したんじゃない?こないだだって、ウォッカ1本飲み干したんだよって話したら目を丸くしてたよ。」 「1週間で1本だよ。………黒瀬のせいで、蒼が余計に過保護になったじゃないか。」 それでもお酒は程々にしようと散々優しく嗜められたのは言うまでもない。飲むなとは言わないが、節度を守るべきだという事なのだろう。 「蒼さんはね、今、贖罪の日々なんだから。ね、ユーリさん。」 ニコッと黒瀬はユーリに爽やかな笑顔を向けた。 「く、黒瀬さん……。」 ユーリが気まずそうに黒瀬の顔を見る。 「ユーリ、気にしなくていいよ。黒瀬はいつもこうなんだ。」 顔を顰めながら言うと、黒瀬は自分の珈琲を飲む。 「まあ、過ぎた事だもんね。ごめんね、ユーリさん。僕としても流石に目の前で吐血されて死にそうになったら、中々手は出せないよね。あ、皐月、それならさ…………。」 「なんだよ?」 黒瀬の嬉しそうな顔に、どうしても口調がキツくなってしまう。どうせロクな事でないのは確かだ。 「………そんなに欲求不満なら、自分で解消してみたら?」 ジュースを飲み干そうとしたら、おもわず噴き出しそうになった。

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