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番外編『皐月、セックスレスで悩む』3
左手の薬指に指輪をした蒼の左右の頬にキスをして、お互いを抱き締め合う。
すっかり気分は新婚のような気分だが、ユーリと黒瀬に会ってからも夜の情事に変化はない。
「………蒼、今日は遅いんだよね?」
「うん。先にご飯食べてて。テイクアウトでもなんでも注文してもいいけど、ヘルシーな食事にするんだよ?」
胃潰瘍から肝機能の数値まで必要以上に気にされて、生活習慣を見直されている自分は蒼の徹底ぶりに少し辟易しそうだった。黒瀬のようにハウスキーパーを雇おうかと蒼に提案されたが、日中家にいることが多いし、必要性を感じず断った。
「………わかってるよ。蒼もできるだけ早く帰ってきてね。」
端正整い、今日も一段と男前な蒼の顔を見つめる。
いつまで経っても蒼への気持ちが変わらない自分が不思議に思ってしまう。
「そうだね。早く帰って、皐月と一緒にお風呂入りたい。」
蒼は抱き締めながら、優しく微笑んだ。
「楽しみに待ってるよ。」
「うん、じゃ、行ってくるね。」
唇にキスを落とし、蒼は後ろ髪を引かれるように玄関の扉を閉めた。
よし、蒼は暫く帰ってこない。
そう思うだけで、ドキドキと鼓動を抑えながら、書斎に向かう。
隠しておいた箱を取り出し、封を切る。
箱の中からはピンクや卑猥な形をしたものが見えて、それだけでも緊張してしまった。
『自分で欲求不満を解消したらいいんじゃない?ほら、今、沢山玩具とかあるよ。』
にこにこと昼下がりのカフェで爽やかに上質なスーツを着込んだ男から言う言葉ではない事は確かだった。控えめに言っても、一児の父親が言う言葉ではない。
唖然としながら、ユーリと顔を見合わせたが、黒瀬はご丁寧にスマホにサイトのURLまで送付してきた。ユーリは『………ぼ、僕も気になる………。』と真っ赤な顔で言うので、何も言わずに転送した。そのまま帰宅し、蒼が帰ってくるまでそのサイト巡回しながら送料無料に釣られ、ついつい何点か抱き合わせで購入してしまったというのが数日前の出来事である。
明らかにアルコールとカフェインを抜いたせいだと自分は思っている。
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