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番外編『皐月、セックスレスで悩む』5
「あれ?皐月、また毛布とシーツ洗ったの?最近マメすぎるんじゃない?」
蒼は乾燥機付洗濯機から綿毛を取り出すと、大量の毛布の綿を確認した。毎朝、出勤前に蒼が洗濯機のフィルターから溜まった綿毛を取り出し、蒼の出勤後に皐月が新たな洗濯物を入れて回すというルーチンになっている。
最近、皐月は毛布やシーツをよく洗濯するので沢山の綿毛がフィルターに残っている。シーツは分かるが、毛布も数日おきに丁寧に洗濯するので、すぐに目詰まりを起こしそうになる。
皐月ははっとした表情になり、キッチンにいた皐月は慌てて駆け寄りながら取り繕うように言った。
「……あっ………いや、最近、汗っかきでさ。夜によく汗を搔くんだ。」
「……え……皐月、それは大丈夫?風邪でも引いてる?それとも何かまた………。」
嫌な予感がして、皐月の身体を診察するように注意深く観察する。元気そうに見えるが、夜中寝ている間に大量に汗を掻いているのではないかと心配になった。
「………あ、最近暑くなってきたからさ、病気とかじゃないし、そんなに心配しなくて大丈夫だよ。」
安心させようとしたのか皐月は優しく微笑み、左右の頰にキスをした。
朝、皐月は蒼に出勤する際は頰にキスし、ハグをする。それはいつの間にか習慣となり、毎朝欠かさず行っている。
「そう?もし続くようなら、病院に付き添うからね。」
「大丈夫。辛くなったらすぐ相談するよ。それより………蒼、今日は遅い?」
皐月は潤んだ瞳で心配そうに聞く。
早く帰ってきて欲しいのかと思い、皐月の唇に軽くキスを当てる。
「いや、今日も早めに帰るから、ゆっくり過ごそう。…………あ、それとも早く帰ってきて欲しくない?」
笑って言うと、皐月は慌てた様子で首を横に振る。
「そんな事ないよ、早く帰ってきて欲しい。」
皐月は優しく微笑んだ。
時計を見ると、もう家を出なくてはならない時間だ。
名残り惜しみながら、皐月に背を向けて、玄関の扉を閉じる。
結婚式も無事に終わり、家族となった今でも皐月との関係は順調に愛を育んでいる。
毎日が幸せに満ち溢れ、仕事に行くのですら名残惜しく感じる。
蒼は車に乗り込みながら、エンジンをかける。
心地良いエンジン音を鳴らし、車道に乗り上げ発車した。
大通りに入り、すぐに朝の渋滞に巻き込まれ、運転をしながら皐月の事を考える。
皐月の肝臓の数値は徐々に回復し、術後も良好で、少しずつ元の生活に戻ってきている。だが黒瀬の酒の話を聞いて、皐月がアルコールを大量に飲む事に驚いた。まさかウォッカにウィスキーの瓶を空けてしまうほど飲むなんて信じられなかった。そこまで思い詰めるほど皐月を傷つけ、苦しめてしまった事を蒼は思い知らされた気分になった。
そして、その直前まで皐月を散々抱いてしまった結果、皐月を死なせてしまう所だった。すぐ傍で青ざめ、冷たくなっていく皐月を目にしてから、皐月を抱くことに躊躇してしまっていた。術後、少し経ってから皐月からセックスを誘われたが、まだ無理をさせそうでやんわりと断った。もう少し皐月の身体が回復してからにしようと伝えると、皐月は寂しそうな顔をしたが納得したように見えた。
皐月の事は愛しているが、壊してしまう程に愛しすぎて歯止めが効かなくなる、
しかしながら最近の皐月は気のせいか色艶が増し、なにもない時ですら色気を感じてしまっていた。肌艶も良く、普段とは違う雰囲気にドキッと目を見張る事が多く、戸惑ってしまう。昨夜もパジャマから白い頸と鎖骨が見えて、艶かしく映った。
そして昨夜、半年も経過したので、元気そうな様子の皐月に声をかける。
『……………皐月……その、もし良かったら、………久しぶりに……してみる?』
前回断ってしまった罪悪感から、思い切って誘った。昨夜は早く帰宅し、一緒にベッドでのんびりと過ごしていた。術後、特に体調不調もなく、半年経過したので、皐月の身体も考慮するとそろそろ頃合いだと判断した。すると皐月は、驚いた顔でふるふると首を横に振る。
『……ごめっ…あの、今日は疲れててさ……。せっかくなんだけど、また、今度でもいい?』
歯切れ悪く皐月は俯いて答えた。
さっきまで元気そうに夕食を一緒に取っていたので、疲れている様子を見落としてしまっていた。
『………そっか、キスだけしていい?』
名残惜しく言うと、皐月は小さく頷いた。
隣にいる皐月に近付き、軽く唇を当てる。ベッドが少し軋み、もう少し皐月の前に寄った。そして我慢できずに皐月の唇の僅かな隙間から舌を割り込むように侵入させる。小さな皐月の舌が弱々しく答え、短い舌先を吸うとキスがどんどんと深くなっていく。
『……ンッ……ぁ……。』
皐月の頭を掴み、もっと深くまで舌をいれる。微かな皐月の喘ぎ声が煽情的に誘っているような気がした。
『愛してるよ、皐月………。』
『………んっ……ァッ…蒼…俺も…。』
皐月が弱々しく答え、手を絡めて音を立てながらキスを続ける。
久しぶりの深いキスにこのまま押し倒してしまいそうになり、ぐっと煽情的な雰囲気に堪える。皐月の身体が第一優先だ。無理に疲れさせてはいけない。そう思っていると、突然、皐月はぐっと胸元を押して自分を突き離した。
『…………あ、蒼…ッ…ごめん…ッ……!』
『…………ごめん、性急すぎたね。』
唇が離れ、すぐに皐月に謝った。
このままキスを続けると、また前みたいに皐月の限界を考えずに抱いてしまうところだった。
「あ、いや、違う……。…でも、ごめん……。」
「いいんだ。この間は僕が断ってしまったし、………今日は早めに寝ようか。」
穏やかに微笑んで、照明を暗くした。そのまま皐月を抱き締めながら寝たが、皐月はそっと腕の中から逃げるように起き出し、寝室を抜けようとした。心配になり間接照明をつけ、皐月を引き留める。
『どうしたの?』
『あ、汗を掻いたからシャワーを浴びてこようかな……』
そう言って、皐月はぎこちなく微笑む。
『大丈夫?熱あるの?』
心配になり額に手をやり熱を測ろうとすると、身体をびくつかせ手を避けようとした。
『だ、大丈夫。それより蒼は明日も早いから寝てて…。』
そう言って、そそくさと皐月は浴室へ消えて行った。
残された自分は何か不穏な空気を感じ取りながら、シャワーから戻って来た皐月を横で感じながら何も言わずに眠った。
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