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番外編『悠君、お泊まりに来る』2
「サツキッーーー!」
玄関の扉を開けると、悠は勢いよく飛び込んでしがみついてきた。久しぶりに会う悠は手足も伸び、背も以前より高くなって、一段と成長した気がした。顔立ちも黒瀬にますます似てきたが、凛々しくなっている。幼児から少年になっていく悠をみて微笑ましく笑う。
「久しぶりだね、悠。」
悠を抱き締めると、軽く頬にキスされる。
すっかり自分よりアメリカの暮らしに慣れて順応していた。
「悠、ちゃんと挨拶しなきゃ駄目だよ。皐月、久しぶりだね。元気?」
黒瀬は後ろから顔を出し、悠の頭をわしゃわしゃと撫でながら穏やかに微笑みかける。
「げ、黒瀬。お陰様で元気だよ。黒瀬も相変わらず元気そうで良かったな。」
「そりゃ、独身貴族様々で宜しくやってるからね。君達夫婦みたくお熱く過ごしてないけど。あ、倦怠期は解消出来た?……………イテッ」
意地悪そうな顔で言うので、黒瀬のみぞおちを肘で突いた。
子供の前で何を言ってるんだ、こいつは。
「サツキ、倦怠期なの?」
悠は大きな瞳を向けて、こちらを見上げる。
目線を下げて、悠に優しく微笑む。どうしてこの黒瀬からこの天使が生まれるのか、人間の神秘だと常々思う。
「ううん、それより一緒にプリン食べよう。美味しいのを買ってあるんだ。」
昨日、蒼が買ってきて用意してくれたプリンが冷蔵庫に眠っていた。
黒瀬は溜息をついて困った顔をする。
「………あまり甘やかさないでくれよ。今日蒼さんは仕事?」
「うん。蒼も悠が来る事楽しみにしてるよ。休みも取ってくれて、どこか出かけようて。………すっかりパパ気取りだよ。」
「はいはい。蒼さんがねぇ……。悠、あまり新婚の邪魔しちゃ駄目だぞ。皐月はもう結婚したんだから、将来の夢は諦めるんだ。」
ニコニコと黒瀬は意味の分からない事を言う。
そして涙ぐみそうな悠をみて驚いてしまう。
「………?黒瀬、泣かすなよ。ほらほら、忙しいんだから余計な事ばっかり言うな。そろそろ帰ったら?」
悠の頭を撫でながら、黒瀬をキッと睨みつける。
「はいはい、じゃあ1週間宜しくね。これ、荷物。困った事あったら、毎日でもラブコールして良いからね。」
小さなトランクを渡され、黒瀬は嬉しそうな顔をして早々に退散した。
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