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番外編『悠君、お泊まりに来る』3

「皐月、ただいま。」 蒼が静かに寝室の扉を開く。 悠は隣ですっかり寝てしまい、そっとベッドから離れ蒼の傍に近寄る。 「蒼、おかえり。」 蒼を抱き締めて、背伸びをするように爪先を上げて、ゆっくりと唇を重ねる。 朝は軽いキスだが、夜は少しゆっくりと深いキスに変わりお互いの無事の帰宅を喜ぶのが二人の暗黙のルールになっている。 寝室のドアを片手で起こさないように閉めて、蒼と廊下で抱き合いながら暫く長いキスを楽しむ。蒼の首に手を回して唇を重ね、互いの唾液を交換するように舌を絡めた。 「………悠君、もう寝たの?」 唇が離れると、蒼は小声で訊いた。 黒瀬が帰ってから悠とプリンを食べて、宿題を仕上げ、夕食を手伝ってもらった。 悠の宿題を見てあげようと思ったが、日本の授業と違い全然分からなかった。 悠は一生懸命調べながら問題を解いていて、傍で見ていて微笑ましい様子に癒された。 「うん、お風呂に一緒に入って、本を一緒に読んで寝たよ。」 悠の読む本が絵本から児童書に変化していた。 ちょっと前まで薄い絵本だったが、字数が増えて驚いてしまう。しかも全て英語だった。 悠は一生懸命に『エルマーの冒険』を夢中になりながら読んでいた。 「そっか。一緒にお風呂なんて、少し妬けるな。」 蒼は腰を掴んで、微笑みながら軽くキスをする。 「…………んっ……蒼、ごはんにする?」 「本当は皐月にしたいけど、先にシャワーを浴びるよ。」 蒼はちゅっと音を立てておでこにキスをすると、笑って身体を離した。 寝室のドアは閉めているとはいえ、ここで長居はできない。 悠が起きたら大変だ。 「じゃあ、ご飯温めておくよ。今日はシチューにしたんだ。」 「ありがとう。悠君の話も聞かせてね。」 お互い幸せを噛みしめながら、浴室とキッチンにそれぞれ別れた。 蒼と付き合って5年程で、3年日本で同棲していたが、結婚してからの方が何故か初々しいカップルのような気分になってしまう。 いつも手を繋いで歩くし、食事はなるべく一緒に取り、会話を楽しんでいる。 蒼の仕事は相変わらずハードだが、休みもきちんと取れて今回も2日ほど休みを取ってくれていた。どこか旅行にでも連れて行こうとしたら、黒瀬から『学校はちゃんと行かせて欲しい』とお達しが出てしまった。

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