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番外編『悠君、お泊まりに来る』8

建物の前で、蒼は昼前に皐月から受信していたメールを眺めていた。 『ごめん、熱が上がっちゃって、迎えに行けそうにないです。送迎サービスを探してお願いしときます。皐月』 自分に気を遣わせないように探してくれるようだが、朝に同僚と相談し、すでに早く上がれるように調整してしまっていた。昼間に受信し、すぐに蒼は返信した。 『僕がお迎えに行くよ。今日はゆっくり寝て、身体を休めてて。昨日は無理をさせてごめんね。愛してるよ。蒼』 昨日の皐月がつい可愛くて無理をさせてしまったのに、自分にまで気を遣わせてしまい申し訳なく思った。だが、隠れて自分の服を持ちながら、誤魔化そうとする皐月が可愛すぎて思い出すだけで口元が緩んでしまう。 まさか自分の匂いを嗅ぎながら、隠れてしてるなんて反則だった。そんな姿を見て黙って見てられない。 ふと建物前に集まる母親やナニーの視線が自分に向けられてるのを知り、蒼は爽やかに微笑んでその視線を穏やかに打ち消す。 時間になり、ベルが鳴り響くと一斉に建物から子供達が出てきた。蒼は悠の顔を探すと、悠は蒼を確認し残念そうな顔で近づいてくる。 「僕でごめんね。荷物持とうか?」 肩を竦めながら、そう聞くと悠は首を振った。止めている車まで悠と歩く。悠は俯きながらとぼとぼと足取りが重く、皐月が来るのを余程楽しみにしていたのが分かった。 「皐月は大丈夫なの?入院してない?」 悠は立ち止まって、蒼をじっと見上げた。今にも泣きそうである。蒼は悠の頭を優しく撫でて励ました。 「大丈夫だよ、入院なんてしない。家に帰ったらいるから、ゆっくり休ませてあげよう。」 「本当?」 「本当だよ。今日も宿題ある?僕と一緒に終わったらゲームでもしない?」 車のドアを開けると、最新のゲーム機の箱が片隅に見え、悠はすぐに目を輝かせた。 「うん、やる!」 黒瀬には悪いが、ここら辺で悠の好感度を上げようと思っていた。

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