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番外編『悠君、お泊まりに来る』10

玄関のドアを開けると、ふらふらと皐月が寝室から出てきた。足取りは重く、かなり辛そうな気がしてならない。 「さ、皐月?寝てていいよ。熱は?」 「寝たら少し下がったよ。少し疲れてたみたい。忙しいのにありがとう。」 皐月は赤い顔を上げて、蒼の後ろにいた悠を見つけて微笑んだ。 「サツキ、大丈夫?」 悠が皐月の元に近付き、ギュッと皐月の腰あたりを抱き締める。 「大丈夫だよ。悠、今日は蒼と寝てて貰っていい?」 皐月は悠を優しく抱き締めて、申し訳なさそうに話す。悠は残念そうな顔をしたが、小さく頷いて皐月は優しく微笑んで頭を撫でた。 「僕たちがリビングとかで寝ようか?」 ベッドが一つしかないので、こういう時困ってしまう。一応、書斎には布団一色は置いてあり、皐月が締切に間に合わない時、書斎に籠もって使っているらしい。 「念の為、書斎で寝るよ。蒼こそ、ゆっくり休んで。………お風呂とか……。」 「僕が全部やっておくから。皐月は寝てて。夕食も後で持って行くよ。ほら、布団敷いとくよ。」 「……いいよ。自分で出来る。でも、ごめん。お言葉に甘えて寝かせてもらうよ。」 皐月は申し訳ない顔でふらふらと書斎に入り、悠に手を振って皐月はドアを閉めた。 悠と手を洗い、キッチンで悠におやつを用意し、先に食べてて貰った。 蒼は皐月が心配になり、書斎のドアをノックして少しだけドアを開ける。皐月は布団をすでに敷いて寝ており、疲れも溜まっていたのだろうか、熟睡していた。 そっと静かに近寄り、額に手を当てる。確かに熱くなっており、熱冷ましシートを貼っておく。皐月にまた倒れられたら、自分が辛い。 あの時、目の前で吐血し、青ざめていく皐月を見て何も簡単な応急処置しかできなかった自分の無力さを思い知らされた。その場に自分がいなかったら、皐月は今こうして眠ってすらいないだろう。 皐月、愛してる。 ずっと傍にいて欲しい。 そっと寝ている皐月の頬にキスを落として書斎を後にした。 「………サツキ、大丈夫?」 いつの間に、悠が足元で蒼を見上げるように見つめているのに気がつく。ケーキとジュースをあっという間に平らげてしまったらしい。そしてどうしても皐月が心配で様子を見に来たようた。 「大丈夫だよ。さ、宿題を終わらせてゲームをしよう。」 笑って、悠の頭をわしゃわしゃと蒼は掻き混ぜるように撫でた。悠はまだ少し不安げな顔をしたが、手を引いてリビングに戻った。

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